第163話 復讐の顛末 中編
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に我が軍の精強さを知らしめることができます」
桂花は朱里に返事すると正宗の方を向いて言った。
「蹴散らすのは構いませんが彼らには襄陽城に籠もり抗って貰わなければなりません。先のことを考え深追いは無用です。それより私達は拘束した蔡一族が一人も逃亡させないことが一番重要です」
朱里は桂花に襲撃への対抗策の方針を話すと正宗の方を向いた。
「伊斗香殿が蔡一族の追撃に回る以上、蔡徳珪軍の夜襲があれば正宗様にも前線に出ていただくしかございません。本来は総大将に前に出ていただくなどもっての他と考えています。ですが、夜襲による混戦となれば武に長けた武将が必要になります」
朱里は正宗のことを心配しそう見上げた。
「今や貴方様の身は貴方様だけのものではございません。ご無理はぐれぐれもなさらぬようにお願いいたします。夜襲があろうと勝つ必要はありません。彼らを撤退させればいいのです」
「分かっている」
正宗は朱里の心配を打ち消すような自信に満ちた表情で答えた。その表情を見た朱里と桂花は正宗に拱手して陣所を去っていた。
正宗は提出された戦後処理の資料に全てに目を通すと遅めの夕餉を食べた。彼は食事を終えると寝間着に着替え寝所に腰をかけ何かを待つように瞑目した。その様子は周囲の気配を探っているようにも見えた。蔡徳珪の襲撃を警戒しているのかもしれない。
十二刻(三時間)程経過した頃、暗き天上に昇る月には雲が塞ぎ地上を月光が差すのを邪魔していた。兵達の多くが就寝しているのか、人の気配は疎らだった。大軍が宿営しているということもあり、等間隔に松明が掲げられ火が煌々とし幻想的な風景を作っていた。その中を時折武装した警邏の兵達が二人組で巡回をしていた。
気温が低いのかいつになく肌寒い。辺りは静まりかえり、聞こえるのは警邏の兵の足音だけだった。正宗が宿営する場所の北の方角に大きな川が流れている。肌寒さは川が近くにあるからかもしれない。伊斗香から川辺は蔡瑁軍の奇襲の危険があると献策され、襲撃した村から五十里離れた場所に移動し宿営地とした。泉と榮菜は蔡瑁の奇襲に備えるために正宗達と合流せず襄陽県の県境を封鎖し、蟻一匹すら抜け出れないよう警戒網を敷くために正宗達とは別行動を取っていた。
正宗は相変わらずただ瞑目していた。
更に二刻(三十分)程経過しただろうか。瞑目する正宗の表情に変化が現れた。すると外の方が急に騒がしくなった。兵達が慌ただしく走り回る足音が聞こえた。その喧噪の中、正宗の陣所に近づいてくる足音が聞こえてきた。その足音は陣所の入り口を塞ぐ陣幕の前で止まった。
「清河王! 大変にございます!」
近衛兵が陣所の陣幕越しに声を大にして正宗を呼びかけてきた。正宗はゆっくりと両目を見開いた。
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