四話:つかの間の日常
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は申し分ない。
もっともはやてはこれはお土産を買い忘れたなと気づいているが言わないだけである。
切嗣が思っているほど彼女は子どもではない。
「それでイギリスはどうやったんや?」
「どう……って言われてもね。葬式に出たんだから旅行じゃないよ」
「それもそうやな」
「まあ、後は昔の知り合いと会ったぐらいかな」
「ふーん」
ケーキに舌鼓を打ちながら話をする。そんな何でもない平凡な光景。
だが、切嗣にとっては何よりも輝いて感じられ、同時にその光景の中に自分がいることにとてつもない違和感を覚える。
あるべきでないものがそこにある。余りの違和感に殺意すら抱いてしまう。
今すぐにでもこの違和感の正体を排除してしまいたい。
見る影もなく引き裂いて、叩き潰して、燃やしてしまいたい。
だが、当然のことながらそれはできない。果たさなければならない使命があるから。
「それにしても旅行かぁー……」
「何だい? どこかに行きたいのかい」
「うーん、色々あるんやけど海に行きたいかな」
「海ならすぐそばにあるじゃないか?」
「もー、おとんは乙女心分かっとらんな。やけ、お嫁さんおらんのやないの?」
海ならば確かにすぐ傍にある。しかし、ただ地元で泳いでもつまらないのだ。
遠くに出かけて綺麗な海で泳ぐからこそ雰囲気が出ていいのだ。
もっとも、切嗣は好きな物が効率という男なので雰囲気というものは気にしない。
近くに海があるのだからそこで泳ぐのが一番効率が良いというのが男の考えだ。
はやての言うようにそういった所は確かにモテない。
「そこを言われると辛いなぁ」
「まあ、でも今は美女四人と暮らしとるハーレム状態やん。羨ましいでー」
「ははは、僕には勿体ないぐらいだね」
本当に勿体ないと切嗣は思う。
人殺しの自分を家族と思ってくれる人がいるなんて本当に勿体ない。
「今年はもう泳ぐには遅くなりそうやしなー。来年みんなで海に行こうや」
「主はやてが望むのなら我らヴォルケンリッターどこまでも」
「そこまでかしこまらんでええんやけどな。おとんも約束してーや」
「……そうだね、約束だ」
己の罪深さを心の底で怨嗟しながら表情を取り繕い約束を家族と結ぶ。
何でもないのに、奇跡が起こらない限り決して叶わない約束を。
信じてもいないが神に祈る。この約束が―――守られることがないことを。
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