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逆さの砂時計
くらすちぇんじ・まりあさま
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か。『刻まれし記憶、綴られし想い。時空を越えて留めた、その(かたち)。籠められたすべてを、己の思考の糧として、己の言葉と語る姿に、成れ!』」
「えっ!?」
「はあ!?」

 『言霊』がとんでもない力だとは、私を具現させた時点で解ってたけど。
 まさか、本のような物体を可動体に変容させられるとは思ってなくて。
 私もベゼドラも、フィレス様の言葉に肝を引っこ抜かれた。
 そして、ぽんっ! と軽い音で変身したのが

「みゃ?」

 トカゲにも(わに)にも似た黄金色の体に蝙蝠(こうもり)みたいな羽根を備え、頭頂部から首筋まで伸びる金色の(たてがみ)をふさふさと揺らす、二足歩行も可能な卵型の、丸っこいゴールデンドラゴン。
 ちなみに、彼の姿を見た瞬間のリースリンデは、花園の中を絶叫しながらすごい勢いで逃げ惑ってた。

「表紙の感触からして、何らかの生き物の皮を利用しているのだろう、とは思ってましたが、これは……ドラゴンの子供でしょうか? 可愛いですね」

 あ、そうか。表紙の皮。
 元生物だったから、『言霊』が通用したのね。
 と、納得していたら。
 ベゼドラが「可愛いか? ただのデブだろ、これ」と言って、思いっきり頭に噛みつかれてた。

「みゃいみゃ」

 自らで考え、動き、声を発するようになった元日記は。
 私と目が合うなり、肩に飛び乗って頬を寄せてきた。

「え? ああ、ティーの日記。()()()()()()()()()()()と言ってましたね。やっぱり、私のことも書いてあったのね? だから私の名前を知って……」
「「「え?」」」
「え?」

 一同に不思議なものを見る目で首を傾げられた、その理由はとても単純。
 彼の……竜族の言葉は、私以外の誰にも理解できなかったらしい。



「にょにょにょうににょみゅみゃみゃにゃみゃ、にゃえみょにゃにゃみゃえみゃにょにゃにゃ」
「私だって、今は何もできないわ。でも、ベゼドラが頑張ってくれてる間にいろいろ考えておかなきゃ」

 本当なら私が背負う筈だった役目を、後世の人間に押し付けてしまった。
 せめて、私にもう少し力が残っていれば、違ってたかも知れないのに。

「あの、聖天女様? それなんですけど……あんな作戦で本当にアリア様が現れてくださるんでしょうか? 仮に現れるとしても、魔王レゾネクトだけなんじゃないかと思うんですが」

 ベゼドラがこれからすることは、一応リースリンデにも話してある。
 ずっと心配そうな顔をしてたのは、この作戦のせいだったのね。

「それで良いのよ。むしろレゾネクトが現れてくれないと困るわ。その為にベゼドラを酷使するのだから」

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