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銀河英雄伝説〜美しい夢〜
第四十八話 薔薇の騎士
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宇宙暦797年  5月 16日  ハイネセン  統合作戦本部  ヤン・ウェンリー



本部長室に入るとシトレ元帥が執務机から立ち上がってにこやかに出迎えてくれた。さて何の用件だろう?
「かけたまえ、ヤン准将」
「はっ」
本部長がソファーに座る様にと勧めてくれた。遠慮せずに座ると本部長が対面に座った。

「帝国が捕虜交換を持ちかけてきた」
「はい」
頷くとシトレ本部長も頷いた。同盟政府は前向きに検討していると聞いている。何と言っても二百万の捕虜が還れば捕虜だけでは無くその家族も喜ぶ。世論も捕虜交換に好意的だ。最近軍事面で失敗続きだ、支持率も芳しくない。この辺りでポイントを上げたいと考えている政府にとっては願っても無いイベントだろう。

「政府は基本的に捕虜交換を受け入れるつもりだ。今日正式に国防委員会から軍に連絡が有った」
「基本的に、ですか」
条件付き? 諸手を上げてというわけでは無い。如何いう事だ? 訊き返すとシトレ元帥が“ウム”と頷いた。

「この話はフェザーン駐在の帝国高等弁務官、レムシャイド伯爵から来た話なのだが伯爵が非公式に或る打診をしてきた」
「非公式? つまり捕虜交換には公表されていない部分が有るという事ですか?」
本部長が“その通りだ”と頷いた。

「それで打診とは何を? あ、いや小官が伺っても宜しいのですか?」
私が問うと本部長が軽く笑い声を上げた。
「構わんよ、君にも関係の有る事だからな」
「私にも、ですか」
シトレ本部長が笑い声を収めた。真面目な表情をしている。
「ヤン准将、帝国はローゼンリッターを帝国に譲って欲しいと言ってきたのだ」
咄嗟には声が出なかった。まさか、ローゼンリッターを譲れとは……。シェーンコップ大佐から情報を得たか。

「帝国は同盟がローゼンリッターを持て余している、扱いかねている事を知った上で言ってきたのですね?」
確かめると本部長が頷いた。
「その通りだ。宇宙空間では陸戦部隊の果たす役割は大きくない。ローゼンリッターの戦闘力は高いが兵力も少なく戦闘の帰趨を決する程ではない。彼らを手放した方が同盟にとっては負担が減るのではないか、そう言ったらしい」
「なるほど」

確かにそういう面は有る。代々の連隊長は十三人、そのうち四人が戦闘中に死亡、二名が将官に出世した後退役、六名が帝国に逆亡命した。そして十三代目連隊長シェーンコップ大佐は第七次イゼルローン要塞攻略戦において捕虜。その後はブラウン中佐が連隊長代理として隊を率いている。連隊長の約半分が寝返っているのだ。ローゼンリッターは極めて扱い辛い部隊としか言いようがない。軍が彼らに信頼を置かず使い潰そうとする傾向が有るのも無理は無いとも言える。

失敗だったな……。帝国語に堪能で戦闘力の高い
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