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忘れられなければならない話
5部分:第五章
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第五章

「このことは」
「はい」
 口の堅さには自信がある。眉を険しくさせて長老の今の言葉に頷く。
「何があっても」
「その言葉信じさせてもらいます」
 長老も彼の言葉を受けてだった。そのうえでまずは首を落としたその亡骸を元に戻してだ。そのうえで家に戻ってそこで彼に話すのだった。
「この村、いえこの辺りの話ですが」
 話す場は居間である。昨日二人で飲んだその場所だ。しかし昨夜の明るさも楽しさもなく朝の日差しも見ることはなく話が為されるのだった。
「死体には必ずしなければならないことがあるのです」
「首を落とすことですか」
「そうです」
 まさにそれだというのである。
「首を落とすことが決まりになっているのです」
「昨日の様なことがあるからですか」
「あれは何だったと思われますか?」
 真剣そのものの、そしてそれと共に蒼白になっている顔で彼に問うてきた。
「昨夜のあれは」
「言って宜しいですか」
 まずはこう前置きした圭祐だった。
 頭の中で想定した。それはスラブにある話である。彼は言うのだった。
「あれは吸血鬼ですよね」
「その通りです」
 想定通りであった。やはりそれであった。
「吸血鬼です。首を落とさないで埋葬するとその死体は吸血鬼になってしまうのです」
「そうですか。やはり」
「はい。吸血鬼になってしまうのです」
 こう話すのである。
「それでこの辺りでは人が死ぬと埋葬前に必ず首を落とすのです」
「成程。それでだったのですね」
「ですから私は先程ああして首を落としたのです」
 また話す彼だった。
「そういうことだったのです」
「さもなければああして」
「どうやら血を吸われた人は出なかったようですが」
「それはいなかったのですか」
「だとすればその人は死んでしまいます」
 血を吸われたことによってである。そうなるというのである。
「家の外に倒れてです」
「しかしそれはなかった」
「まずはそれに安心しています」
 長老は僅かばかり安堵した顔を見せてきた。
「しかし。首を落とすのがどうしても抵抗のある人がいまして」
「それでなのですね」
「はい、それでああなった」
「肉親の首を落とすのは忍びないということですか」
「その気持ちはわかります」
 長老は腕を組みまた深刻な顔になった。
「肉親に対して。死んでしまったとはいえそうするのはです」
「しかしそれによって吸血鬼が」
「生まれてしまうのです。過去それで何度も悲劇が起こりました」
 それもあったのだという。
「しかし今でも時折ああしたことが」
「左様ですか」
「家族には後で私が言っておきます」
 語る長老の顔は今は沈痛なものであった。
「それで話を収めますが」
「また。出て来るでしょうね」

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