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忘れられなければならない話
3部分:第三章

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第三章

「実にのう」
「そうですね。俺もちょっと見ただけですけれど」
「そのよさはわかって下さいますな」
「はい」
 率直に答えた彼だった。
「わかりますよ、本当に」
「それは何より」
 彼の言葉を心から喜び顔を崩す長老だった。
「それではです」
「今度は」
「お酒はいけますかな」
 今度は酒の話をしてきた長老だった。
「そちらは」
「ええ、いけますよ」
 満面の笑みで答える圭祐だった。
「ビールでもワインでも」
「ではワインにしましょう」
 そちらにするというのである。
「今は」
「ワインですか」
「この辺りはいいワインが採れます」
 このことも話してきたのだった。
「ですから。それを」
「御願いできますか」
「今度は私のおごりです」
 長老はこうも言ってきた。
「ですから」
「有り難い。では喜んで」
 おごりと言う言葉に乗った彼だった。そんな話をして村を歩いているとだった。不意に村の外れで泣いている数人の者達を見たのであった。
「あれは」
「ああ、あれはですな」
 見ればその辺りには十字架が幾つも並んでいる。圭祐もそれを見て幾分か悟った。
「お墓です」
「そうですか」
 それを聞いてやはり、と思った。十字架で察しがついたのである。
「じゃあ今は」
「はい、埋葬をしています」
 少し寂しそうに話す長老だった。
「それでこの辺りはですが」
「土葬ですね」
「ええ、キリスト教ですので」
 土葬なのだ。このことを聞いた圭祐は宗教的慣習のことに考えを巡らせようとした。しかしそれより早く長老が言ってきたのであった。
「ただ。守ってくれたらいいのですが」
「守ってくれたらとは?」
「あっ、いや」
 圭祐が問うてきたのを受けてか言葉を引っ込めてしまった長老だった。
「何でもありません」
「そうですか」
「こちらの話です」
 こう言って話を止めるのだった。
「何でもありませんから。それではですね」
「はい」
「これからお風呂に入られますか?」
「そうですね」
 言われて少し考えてから答える彼だった。
「それじゃあ御言葉に甘えまして」
「それでは」
 こうして風呂に入り長老の家でそのワインを楽しんだ。ワインの肴はソーセージにチーズだった。確かに質素だがそれでも味はいいものだった。おかげでまた楽しい時間を過ごす圭祐だった。
 長老は彼とさしで飲んでいる。そこで彼は言うのであった。
「うちのは朝が早くてですね」
「奥さんがですか」
「はい。今の時間にはもう寝てしまいます」
 そう彼に話すのだった。その居間で木造のテーブルに座りながら。この家も木造であり質素な造りである。しかし広く確かな造りである。

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