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忘れられなければならない話
2部分:第二章

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第二章

「それだけじゃ」
「そうだよ。確かにヨーグルトは食べるがね」
「それだけじゃないよ」
 その親父とおかみの言葉である。
「だからほら」
「まだ食べるかい?」
「いや、それはもう」
 満腹だった。だから笑顔でこう言った。
「満足です」
「おやおや、日本人は少食だね」
「全くだよ」
 今の彼の言葉を聞いて親父とおかみは笑って言葉を返してきた。
「これ位で満腹だなんて」
「本当に食べるものが少ないね」
「そうですか?」
 そう言われて首を傾げてしまった圭祐だった。彼にしては相当食べた。その自覚はあるからだ。だから言われてそうなってしまったのだ。
「かなり食べたんですけれどね」
「いや、全然だよ」
「デザートもあるのに」
「デザートもですか」
 それを言われると表情が変わった彼だった。そしてこう言うのだった。
「それじゃあですね」
「食べるんだね、デザートも」
「それも」
「ええ、御願いします」
 身体を乗り出すようにしての言葉だった。
「それも」
「よし、じゃあ」
「どうぞ」
 言ってだった。すぐにそのデザートを出してきたのであった。それは。
 アイスクリームだった。紅の色をした。そのアイスクリームを見て彼はまずこう言った。
「この紅は」
「薔薇だよ」
「薔薇のアイスクリームだよ」
 親父とおかみが笑って言ってきた。
「それだけれど」
「どうだい?」
「薔薇のアイスクリームですか」
 それを聞いてまずは目をしばたかせた彼だった。
「そんなのもあるんですね」
「そうさ、あるよ」
「ブルガリア人は薔薇が好きだからね」
「それで薔薇のアイスクリームですか」
 話を聞いて言った彼だった。
「成程、それで味は」
「食べてからのお楽しみだよ」
「どうぞ」
 また笑顔で言ってきた二人と周りの村人達だった。実際に食べてみると美味かった。薔薇というものの味も知ることになった圭祐だった。
 食事の後で村の長老に連れられて村の中を歩いた。見れば畑だけでなく薔薇も目立つ。落ち着いている緑の中に華やかな紅もある。それが実に美しかった。
 その美を見ながらだった。彼は長老に対して言うのだった。
「いいですね」
「気に入って頂けたかな」
「はい」
 まさにその通りだと答えるのだった。
「いい村ですね」
「そう言って下さって何より」
 見れば長老も彼の言葉に満足していた。その顔が綻んでいる。
「こちらとしてものう」
「そうですか」
「うん。しかしそれはこの村だけでなく」
「ブルガリア自体がですか」
「いい国ですぞ」
 愛国心も見せる長老だった。

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