三話:魔導士殺しのエミヤ
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法があったところで人が存在する限り殺し合いが終わらないようにね」
「……私はあのとき君を助けるべきではなかったと思っているのだよ。
君にとってはあそこで死ぬことができた方が余程救いだったのではないかとね」
死ぬことこそが救いだったと言われても切嗣は表情を変えることは無い。
しかし、瞳の奥には人並みの幸福を祈り、正義を捨てようと思った在りし日が浮かんでいた。
「僕が死ぬとすればそれは犠牲に見合う対価が得られた時だ。もっともそれは不可能だろうけどね」
そう言って酷く不格好な笑顔を見せる。
その姿からは切嗣の自身には死ぬ権利すらなく永遠に殺し続けるのだという諦め似た覚悟を感じさせた。
グレアムは余りにも残酷な運命に目を背けるように飲みかけの紅茶を見つめる。
赤い紅茶は不思議なことに血と炎を彷彿させ老人に過去を思い起こさせた。
――片方しか救えぬのに両方を救おうとしたらどうなるのか?――
男はその答えを身をもって知った。
誰かを救うために誰かを殺し続けた男はある日傷つき倒れた。
ここで終わるのもいいかもしれないと生きることを諦め、目を瞑った。
だが、男は再び目を醒ますことができた。
目を醒ました男の前には自分を救ったと言う美しい少女がいた。
介抱をされていくうちに男は少女に恋をしていった。
まだ若かった男はここで夢や義務を放り出して人並みの幸せを掴んでもいいのではないかと思った。
少女の笑顔が好きだった。それを守ることができたらどれだけ素晴らしいかと思った。
だが男にはそんなささやかな願いすら許されなかった。
選択の時は非情にも男の元に訪れる。
ある日男が少女の元を訪れると少女は血だらけで倒れていた。
驚く男に少女は言った。自分を殺してくれと。呪いが他の者に移る前に。
男は呪いなど信じていなかったが彼女を安心させるためにどちらも助けると言い残して医者を呼びに行った。
……彼女の肌を染め上げる血が彼女の両親のものだとも気づかずに。
医者を伴い戻って来た男は絶句した。村は血を流して彷徨う亡者で満たされていたのだ。
何の冗談だと絶句しているところに後ろから襲い掛かられ医者は噛まれてしまった。
すぐさま撃ち殺そうとしたところで男は茫然とした。
医者の肉を食いちぎっていたのは変わり果てた少女だったのだ。
声を掛けても返事はなくただ自分を餌としてみる貪欲な視線だけが返って来るのだった。
殺さなければならない。だが殺したくない。元凶はどう考えても少女だ。
それでも殺せない。引き金を引けない。男は叫び声を上げて彼女から逃げ出した。
あてもなく走り続けた。ただ全てから逃げ出した
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