巻ノ十六 千利休その十一
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「上田まで戻られてはどうでしょうか」
「徳川殿の、ですか」
「徳川殿は戦だけではなく政も非常によき方です」
「そのことでも評判ですな」
「ご領地はよくまとまっております」
「そして民もですか」
「徳川殿の政で幸せに暮らしておられます」
そうしているというのだ。
「ですから」
「その徳川殿のご領地も見たうえで」
「上田に戻られてはどうでしょうか」
「しかしですぞ」
ここで利休に言ったのは穴山だった、顔を顰めさせての言葉だった。
「徳川殿は」
「甲斐、そして信濃に兵を進められています」
即ち上田のある国にというのだ。
「ですから」
「徳川殿は敵だと」
「やがて徳川家とは戦になります」
穴山はそのことを間違いないとだ、言い切った。
「その徳川家の国に入ることは」
「我等がいれば殿に指一本触れさせませぬが」
望月も曇った顔になっていた、幸村を見てから利休に言った。
「しかし」
「危機はですか」
「自ら虎穴に入る時もありましょうが」
「今は果たしてその時か」
首を傾げさせてだ、伊佐も言った。
「それが問題ですが」
「いえ、今はです」
「今はといいますと」
「徳川家は上田に攻め入ってはおらずです」
そしてとだ、利休は語った。
「真田家とも悶着はありませぬ」
「では徳川家は敵ではないと」
「今は」
利休は由利にも答えた。
「そうであります」
「言われてみれば今はそうでありますな」
由利も言われて気付いた、そのことに。
「徳川家とは悶着がありませぬ」
「ですから」
「我等が徳川家の領地に入っても」
海野は今は家康のことを考えていた、戦上手をして知られている彼のことを。
「手出しはされませぬか」
「徳川殿は律儀な方です」
利休はこのことも知っていて言うのだった。
「その様な無体なことはです」
「されぬと」
「はい」
その通りだとだ、利休は海野にはっきりと答えた。
「左様です」
「ううむ、確かに徳川殿は」
清海は首を傾げさせつつこう言った。
「天下でも律儀なことで知られている方」
「敵でないならです」
「手出しはされぬ」
「そのことは安心していいです」
「確かに徳川殿は非常に出来た方です」
筧も確かな声で言った。
「我等がご領地に入られることを認められたら」
「それではですな」
「それからはです」
「手出しはされませぬな」
「拙者もそう聞いています」
こう利休に答えた。
「では、ですな」
「はい、よければですが」
「徳川殿のご領地も巡り」
「そうして上田に戻られては」
「そうですな、では」
幸村は利休のその言葉に頷いた、そしてだった。
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