第6話
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「もしかして、優佳、彼氏できた?」
残された男子の方を見ながら、声を小さくさせて優佳に話しかける。
「違う。ただの幼馴染」
「本当?」
「本当」
恥ずかしそうなそぶりを見せないので、結月はなんだかつまらなくなってしまった。
その男子は自分のことを森本と名乗った。優佳とは家が近いおかげで幼少時からの知り合いらしく、月姫には中学校から入学したと言う。なにより驚いたのは、優大と同じ演劇部に所属していたのだ。
戸塚沙織から教訓を聞かされた日の夜、結月は自分が恋愛に固執し過ぎていたということに痛いほど気付かされた。そして『恋は盲目』状態にあった自分が恥ずかしく思えた。夢見た高校生活は恋愛が全てではなかったはずで、むしろ友人関係や部活動に充実した、華々しい学園生活の中に恋愛があるべきはずだった。
要するに、『自律』できていなかったのである。
だから、『自律』しようと心に決めた。このままでは他を棒に振ることになるだろうし、何より他人に迷惑をかけたくなかった。意気消沈していた自分を励まそうと幾度となく話しかけてくれたクラスメートの存在に、結月は有難さと心強さを改めて感じた。
だが、結月は恋をあきらめたわけではなかった。彼女はこのことを『戦略的撤退』と考えることで、前向きな気持ちを保つことが出来た。優大へのアプローチを極力控えると、優佳にもメールで伝えていた。
「戦略的撤退だよ。戦略的撤退」
無理をして膨れ上がってしまったバッグを膝で蹴りながら、結月は直樹と別れて二人きりで歩く優佳に語りかけた。
「ああ、あのこと?」
「うん。今考えると、何だか自分が怖くなってきた」
結月が白い歯を見せる。
「しおらしいかたやまちゃんも、またかたやまちゃんだよ」
優佳は結月の背中を軽く叩いた。温かみのある痛みだった。
「ここが我が家」
顎をくいっとさせた先には、『高山』という表札が掲げられた二階建ての家が構えていた。
「すごい、庭付きじゃん」
結月は目を丸くした。東京で庭付き一軒家なのだから、この子は相当裕福な家のお嬢さんなんじゃないかと、自分の顔を見て得意そうにしている優佳をまじまじと見つめた。
「それじゃあ、入って入って」
優佳はおもむろに玄関のドアを開けた。
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