第6話
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団登校の班長を任された時は、優佳は副班長だった。
直樹と優佳が頻繁に会わなくなったのは、直樹が月姫中学に入学した頃からだった。
思春期を迎える年齢にもなり、異性同士二人きりになることが恥ずかしかったのもあるが、二人は、会えば話すものの、それこそ以前のように互いの自宅へ遊びに行くようなことはしなくなって、いつしかそれが当たり前のようになった。
俺にとっての幼馴染は、どんな存在だろうか。
手芸用品店の看板を探してあちこちを見回している優佳を見て、直樹は『天女の羽衣』に出てきたひかるのことを思い出した。
ひかるは主人公のかすみのことを保護者としての立場で見ているに違いない、と直樹は考えていた。設定では二人は小中高と通学路を共にしているから、恋心は意外と早く芽生えるのではと予想していたからだ。思春期に互いを意識し合うことなしに日々を過ごせるかと言われたら、まず無理だろう。ひょっとしたらひかるはそう思った時期もあるかもしれないが、それでもその恋心を押し殺して接してきたのは、不幸なかすみの境遇を知っていたからだろう。自分に向けてくる笑顔は家族愛の類のものだと思っていたに違いない、と直樹は踏んでいた。
では、自分が優佳と三年間疎遠になっていなければ、俺は彼女のことを好きになっていただろうか。
ぼーっとして歩いていた直樹は、優佳が立ち止ったことに気付かず、そのままごちんとぶつかってしまった。
「ちょっと」という非難めいた言葉の後に、ふわっと甘い香りがする。
「なにぼやっとしてんの」
口をとがらせながら優佳は直樹の目を見る。
「ちょっと考え事してたわ。悪い」
直樹は頭をポリポリと掻きながら苦笑いをした。
「ここ、ここ。目当てのお店」
優佳が指さした先には、緑の下地に白抜きで『手芸用品のモリタヤ』と書かれた看板が掲げてあった。
「僕は今日みたいな日も悪くないと思ったよ」
けたたましいモーターの音をトンネル中に響かせながら走る地下鉄の車内で、吊革に両手を預けてぶらぶらしながら、直樹は生地の入った紙袋を抱えて座っている優佳に話しかけた。
「なに、その言い回し」
口に軽く手を添えて、優佳が破顔する。
「中学入ってからどっか行くなんてことなかったから」
直樹も笑みを浮かべながら、優佳の顔を見た。
「確かに、直樹と遊びに行くのは久しぶりかあ」
「最初の頃は普通に遊んでたんだけどな」
「そういうもんでしょ。部活とかもあったし」
列車がトンネルを抜けて、高架へと続く勾配を力強く駆け上がっていく。行き場を失って車内へなだれ込んでいたモーター音が外へ逃げていくと、直樹は耳が詰まったような感覚に襲われた。
やがて駅
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