第6話
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かしいだろう。智は幼馴染を彼の従妹に代えて考えてみたら、顔が赤くなってきてしまった。
「まあ、役回り的に森本だから、我慢してください」
同情の気持ちがたっぷり添えられた智の言葉に、直樹は「任せてください」と深みのある声で答えた。
場面は期末テスト二日前の午前に戻る。
「直樹。はやいじゃーん」
改札をじっと眺めていた直樹の横から、一人の女子が軽やかに声をかけた。
直樹が彼女の方を振り向くとき、整髪スプレーのラベンダーな香りが直樹の鼻筋をなでた。
「おう、都営じゃなかったんだな」
直樹が意外そうな顔をして話しかけるのは高山優佳であった。
「うん。新宿まで出て、そっからJR」
夏らしいさわやかな水色のブラウスの胸元についた、大きなリボンがホームから吹いてきた風にたなびく。
「別にお前んちから一緒に来てもよかっただろ」
直樹がうんざりそうな声を出すと、優佳は大きく嘆息し
「ロマンがないなあ。こういうのが良いんじゃん」
と、非難めいた口調で返した。
なだれ込む風に逆らって、二人は出口へと歩みだす。
「勉強しないとやばいんだよ。あんまり拘束しないでくれ」
「はあ? 演劇部の衣装作ってやってるのはどこの部活なんですかあ?」
「だーかーらー、なんで今日なのかって話だよ」
「仕方ないでしょ。部長が今日行って来いって言ったんだから」
「ほら、結局悪いのは手芸部じゃねえか」
「うるさい!」
大手柄を立てたかのように話す直樹の方を、優佳が勢いよく叩く。
「痛ってえな」
優佳のストロークがよほど応えたらしく、直樹は顔をゆがめながら患部をさすった。
直樹の苦痛の表情を見て、優佳は少しやりすぎたかと後悔した。
「あ……。ごめん、大丈夫?」
「あ? ああ。うん」
普段は叩いても謝りなどしない優佳に、直樹は拍子抜けしてしまった。
「今日はなんだか優しいんだなあ」
「いや、めっちゃ痛そうにしてたから、なんか罪悪感」
「告訴します」
観客のいない夫婦漫才を繰り広げながら、二人は七月の太陽が照りつける地上に出た。
どこにでもありそうなビルが立ち並ぶありふれた大通りを十分ほど歩いた後、優佳は「こっち」と、これまた平凡な路地を指さして直樹の先を行く。初夏の日差しを建物が遮ってくれるせいか、ひんやりとして心地よい風が二人の首筋をなでる。
直樹は涼しげな水色をまとった優佳の背中を、何気なく見ていた。
優佳とはだいぶ長い付き合いである。家も高山家の玄関から見えるぐらいの位置にあるので、小学校に通っていた六年間はほとんど毎日、登下校を共にしていた。六年生で集
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