第6話
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うだ」と偽る者も現れるが、彼女は簡単に見破ってしまう。
実を言うと、彼女はそもそも髪留めをどこにも隠してはいなかった。幼馴染のひかるに預けていたのである。美男子五人衆が意地でも探し当てようとしている髪留めが、実は彼女から預けられた物であることを知ると、ひかるは彼女の五人を囃し立てるような態度に激怒し、髪留めを返そうとかすみに迫る。「こうするしかなかった」と懇願する彼女に、彼は持ち続ける代わりに一切の接触を断る。こうしたやり取りの末にかすみは突然訪れた哀愁が彼への恋心であると気付く。
自らの想いを知ったかすみであったが、その思いを伝えることは無かった。
彼女はどうも自分はこことは別の世界の人間ではないかと、ふとした拍子に思うことがあった。祖父母や幼馴染の男子の他に話の弾む人間など、未だかつて出会ったことが無かったからかもしれないが、ある日の出来事を境にその疑問が確信へと変わる。
上弦の月の夜のことだった。その日は次の日が休みだったからか、珍しく夜更かしをしていて、東の空に腰を据えている山吹の半月をぼんやりと眺めていた。突然、月が眩いばかりに輝きだし、あたりが昼間のように明るくなったと思うと、一筋の光線が自宅の庭に向かって下りてくる。彼女は寝静まっている祖父母を起こさないように忍び足で縁側へと向かうと、普段の自分がしているような血の通わぬ冷酷な目をした、平安装束に身を包んだ女が一人、周りの空気をきらめかせながら佇んでいた。
彼女は迎えが来たのだと確信した。結局、数分間対峙した後、その女は跡形もなく消え去ってしまったのだが、それでも彼女は自分がこの世界の人間ではなく、いつか元あるべき世界に帰ることになるのだと悟った。それだけ、平安装束の女の目つきは自分と似ていた。
このようなことがあったからこそ、なおさらかすみはひかるに思いを伝えることはできなかった。断られるのが怖かったのではない。彼女は、たとえ幸せをつかんだとしても、その幸せはすぐに消えてしまうことが分かっていたのだ。
自分はきっと満月の日にこの世界と別れを告げることになるだろうと、かすみは本能的に推測していた。だから、それまでの一週間を何とかして耐えようと思った。ひかるに渡した髪留めを形見にさせようとも考えていた。そんな風にしていたら、全身からやる気が無くなってしまって、十三夜の月の日にとうとう学校をさぼってしまった。
かすみの欠席はひかるの罪悪感をますます成長させた。かすみのためにと思って言った言葉が彼女を傷つけてしまったと思い込んでいたので、自分から話しかけるのは無神経だと感じ、ひたすら耐えていたのだが、ついに我慢も限界となって彼女の自宅へと向かった。彼はかすみから彼女の宿命を聞かされるが、疑うことなく受け入れ、翌日に迫った月への帰還を阻止し
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