追憶-レミニセンス-part2/忍び寄る影
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なかった。ラグドリアン湖を一目見ようと散歩してたら、水の精霊が月明かりに惹かれて現れたのかと思ってね。知らなかったとはいえ…あまりに綺麗だったから見入ってしまった」
「嫌ですわ、もう…アルビオンの方ったら冗談がお上手なのかしら」
見られてしまったという事実に、アンリエッタもまた恥ずかしくて真っ赤になる。冷たい水で冷やしたはずの体が、火竜どころか灼熱の怪獣並みに熱くなるのを感じた。
「じょ、冗談なんかじゃないさ!僕は王子だ。嘘をついたことは始祖に誓って一度もない!ま、まあ…水の精霊なんて見たことはなかったけど…」
「ないけれど…なんですの?」
「…君は、その…」
恥かしさが抜け出ていない様子だったが、アンリエッタをまっすぐ見ながら、彼は真摯な声で言った。
「水の精霊より、ずっと美しいよ」
このときのウェールズとアンリエッタの顔も胸の鼓動も、とても赤くて熱いものだったことは間違いない。お互いに名前しか知らない関係だったはずの二人は、双月に彩られた湖畔にて恋に落ちた。
園遊会は数日続いた。その間、二人は夜になると、マスクを着用したりフードを深くかぶったりして人目をはばかりながらラグドリアン湖の湖畔にて密会を繰り返す。この園遊会が終わったら、それぞれが祖国に帰ることとなり、いつ再会できるかわからない。だから一緒に過ごせる時間を一秒でも伸ばしておきたかった。
「風吹く夜に」
「水の誓いを」
ウェールズが最初に言うと、アンリエッタがそう答える。二人だけの合言葉。
もうすぐ、園遊会は終わる。その時もまた二人は手を繋ぎながら湖畔を歩いた。アンリエッタは影武者(実はルイズ)を使ってここまで来たとか、酔っ払いの相手はうんざりとか愚痴を思わずこぼすと、ウェールズは大丈夫なのかと心配になってあたふたしていたものだ。
「ウェールズ様、ご存じ?このラグドリアン湖の水の精霊は『誓約の精霊』とも称されています。ここで誓い合った誓約は、決してたがえられることがないと」
「ただの言い伝え…迷信だよ」
苦笑しながらウェールズが言うが、アンリエッタは言った。
「たとえ迷信だとしても、私は疑っておりません。信じ続けた果てに叶えられるのなら、いつまでも信じ続けます」
頬を伝う涙が、月の光に反射してダイヤモンドを超える輝きを放った。それに気づいたウェールズは、アンリエッタの涙で濡れた頬を撫でた。
「ああ、泣かないでくれ。湖で君の涙であふれてしまう」
「ウェールズ様は、私がどれだけ愛しているのか、測りきれていないのでしょうね。私が本気になるほど、意地悪な冗談を言って…」
「機嫌を直してくれ、お願いだよ…」
「ならここで誓ってくださいませ」
アンリエッタはドレスのスカートの裾を掴んで湖に足を踏み入れる。まるで水の上を歩いているようであった。
「私、トリステイン
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