序章
妖精の尻尾 《前》
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だ。
そんな大きな街なので当然駅にも人が多く、その多い客の中には何かしらの事実で駅員を困らせる場合もない訳じゃない。それは喧嘩であったり列車に置き忘れた忘れ物であったり、例えば。
「あ…あの…お客様……だ…大丈夫ですか?」
この駅員が戸惑いつつ声をかける少年のような、重度の乗り物酔いであったりする。
文字通り目を回す少年の呼吸は苦しそうで荒い。ツンツンした桜色の髪に、どことなく鱗を模したような柄の白いマフラー。背中には鞄と毛布を背負い、よほど苦しいのか駅員の問いに答える事も出来ない。
「あい。いつもの事なので」
その少年―――ナツの代わりに駅員に答えたのは、ネコだった。
見た目は誰がどう見ても、どこをどう見てもネコとしか言いようがない。だけど喋る。しかも当たり前のように二足歩行する。
毛は綺麗な青、尻尾の先だけが白い。緑色の風呂敷を背負う喋るネコ―――ハッピーは、低い位置から駅員を見上げていた。
「無理!もう2度と列車には乗らん……うぷ」
「情報が確かならこの街に“火竜”がいるはずだよ、行こ」
「ちょ……ちょっと休ませて…」
ハッピーの方は元気だが、ナツはといえば立ち上がろうとするだけで吐き気が込み上げてくるレベルでグロッキー状態に陥っている。どうにか話せるもののその声は途切れ途切れで、窓から顔を出して外の空気を吸っていた。
「うんうん」
ナツが乗り物に弱いのはハッピーも知っているし、苦しいなら少し休んだ方がいいだろう。無理に動かして更に状態が悪くなるのは可哀想だ。
と、そう思いながらハッピーは先に列車を降り、何気なく後ろを振り返る、と。
「あ」
「!」
ナツの姿が遠くなる。どうやら発車時刻が来てしまったらしい。
ガタン、ゴトンと音が遠くなり、同じようにナツの「たーすーけーてー……」という声も遠くなる。
「出発しちゃった」
その様子に、ハッピーは表情1つ変えずに呟いた。
「え――――っ!!?この街って、魔法屋一軒しかないの?」
ナツが列車から降り損ねたのと同時刻のハルジオンの街。
街で唯一の魔法屋“MAGIC STORE 3ZX3”の店内で、少女の驚愕の声が響いた。
「ええ……もともと魔法より漁業が盛んな街ですからね。街の者も魔法を使える者は一割もいませんで、この店もほぼ、旅の魔導士専門店ですわ」
そう答える尖がり帽子を被る店主と、カウンターを挟んで立つ少女。
肩ほどまでの長さの金髪をサイドテールに結わえ、青いリボンを飾っている。青いラインが生える白のノースリーブのトップスに、鮮やかな青のミニスカート。足元は黒い厚底ブーツを履いている。ファスナーで前を締めるタイプのトップスは胸の辺りまで開かれている為に
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