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手のなる方へ
6部分:第六章
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、あれね」
「見た?」
 恭子が須美に問うていた。
「昨日の」
「観たわよ」
 くすりと笑って答える須美であった。
「昨日も凄かったわよね」
「あの人いつもあんなのよね」
「学校出てるのよね、確か」
「高校まで出てるそうよ」
 恭子もまた笑顔で答えていた。
「一応は」
「一応なの」
「だって。ここじゃ大体皆同じ高校じゃない」
「ええ」
 田舎なのでどうしても通う高校も皆同じになってしまうのである。隣の村や町に行くのにもバスは少ないうえに相当な時間がかかるからだ。田舎故の話である。
「けれど他の所じゃ違うからね」
「だからなのね」
「そうよ。違うのよ」
 また答える恭子であった。
「そういうところがね」
「じゃあやっぱりあの人が通っていた高校って」
「相当無茶苦茶な学校だったと思うわ」
「やっぱり」
 須美は恭子の言葉に納得した顔になった。
「そうなるのね」
「そうならないとおかしいでしょ」
 恭子はまた笑って話す。
「そうじゃないと幾ら何でも」
「昨日だってねえ」
 須美は語る。
「幾ら何でも二束三文をニ三十円って」
「私達でもわかったわよね」
「当たり前よ。他にもあの番組」
 そうした回答が注目されている番組なのである。
「くだを巻くとネクタイって答えたり」
「それ答えた人玄人の逆新人って答えていたわよ」
 これにしろ彼女達でもわかることであった。中学生でもだ。
「素人よね」
「そうよ、素人」
「普通間違えるかしら」
「わざとじゃないわよね」
「違うでしょ」
 また答える恭子であった。
「絶対に」
「じゃああっぱり」
「凄過ぎるわよね」
「そういう人もいるのね」
「まあそうね」
 そう話をしながら饅頭を食べていく。饅頭は二人にとっても皆にとっても美味く見る見るうちに減っていった。気付けばもう一つも残っていなかった。
「美味しかったわね」
「ええ」
 恭子は須美の言葉に頷いていた。見れば二人共実に満ち足りた顔になっている。
「こんなに美味しいなんて意外ね」
「あれっ、知らなかったの?」
 須美は恭子の顔に目をぱちくりさせるのだった。
「神主さんの奥さんって料理上手なのよ」
「そうだったの」
「特にお菓子がね」 
 上手だというのだ。
「得意なのよ。お饅頭だってね」
「そうだったの」
「あんたも今までにも何回か食べた筈よ」
「気付かなかったわ」
 首を捻って須美に答えるのだった。
「それはね」
「ちょっとうっかりし過ぎ」
「御免なさい」
 ぺろりと舌を出して謝る恭子であった。
「けれど美味しかったわ」
「これで覚えたわね」
「ええ」
 今度は普通に頷くことができた。
「美味しいものはすぐに舌が覚えてくれるから」

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