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手のなる方へ
5部分:第五章
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第五章

「そういうところで勉強した方がずっといいんだって」
「そうだったの」
「あんたもそうした方がずっといいわよ」
 忠告めいた言葉であった。
「聞いたら駄目だからね」
「わかったわ。じゃあそうするわ」
「そうしたら数学の成績があがるから」
 須美の言葉はかなり辛辣なものであった。しかしそれだけ無能な教師であり学生からも馬鹿にされているというのは厳然な事実である。
「わかったわね」
「わかったわ。それじゃあ」
「それじゃあ?」
「話戻るわよ」
「ええ」
 話は理科に関する話に戻るのであった。恭子は須美の話を聞くだけであった。
「それで中森先生の授業だけれど」
「どうなの?」
「わかり易いわよ」
 にこりと笑って恭子に告げるのだった。
「だから安心していいわよ」
「そうなの。じゃあ安心していいのね」
「ええ、大丈夫だから」
 また恭子に告げる。その西田先生という教師の無能ぶりを話した後であるから余計に強調していることがわかる話であった。
「面白いしね」
「私は加納節も捨て難いけれどね」
「ふふふ、あれもね」
 加納節と聞いて須美の顔が綻ぶ。
「中々面白いわよね」
「そうそう、そういうことはなきにしもあらずって言葉好きよね」
「何であんなふうに言うのかしらね」
「さあ」
 笑いながら須美の問いに首を傾げてみせる。
「それはわからないけれどね。癖みたいだしね」
「癖なのね」
「だからわからないわよ」
 また言う恭子であった。
「そこまではね。まあそれでよ」
「それで?」
「理科の宿題だけれど」
「ああ、あれね」
 今度は須美が恭子の言葉に応えるのだった。
「あれ、もうやった?」
「一応はね」
 また須美に答える。
「やったわ」
「物理ってねえ」
 須美は浮かない顔で述べた。
「正直苦手なのよね」
「わかりにくいわよね」
「何なのかしら、あれ」
 その浮かない顔でまた述べるのだった。
「全然わからないけれど」
「加納先生曰く全然わからないのが物理らしいけれどね」
「それ説明になってないし」
 須美はすぐに突っ込みを入れる。
「わからないものをわかるようにじゃないの?」
「けれど本当にわからないから」
 話が微妙に矛盾したものになっていた。
「仕方ないじゃない」
「正直ね。私も」
 恭子はまた苦笑いになっていた。
「やったはいいけれど正解かどうかは」
「わからないのね」
「多分間違ってるわ」
 如何にも自信なさげな言葉であった。
「それでもいい?」
「別にいいわ」
 こう答える須美であった。
「見せてもらえるだけで」
「そうなの。それじゃあ」
「後で私の家に来て」
 笑って恭子に告げる。
「お菓子用意しておくから」

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