古狗
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はあざ笑うように言う。己の勝利を完全に確信しているのだ。
しかし、狩人は無言の下にその言葉を切り捨て、懐からある物を取りだす。
「ン?」
それは注射器だ。こぶし大の注射器、中には赤い液体が入っている。狩人はその注射器を、何の躊躇もなく自分の右足に突き刺し、液体を注入する。
「ぐぅっ」
瞬間、狩人の全身に熱が走った。血液がすべて燃料にでもなったかのような熱さ、すぐさま身体の代謝が活発になり、夥しい発汗が始まった。そして狩人の回りに赤い光が見えたかと思うと、それは息を吐く間もなく狩人の傷口に吸収され、失った肉を完全に再生させた。
「ナンダト!?」
折れた骨も、ボロボロの内臓も、一瞬で修復される。狩人は、ほんの一息つく間に完全に復活していた。
『輸血液』
ヤーナムの医療の代表であり、血中に流し込むことで生きる力を呼び起こす薬品である。
「バカナ! 犬上デモナイタダノ人間ガ、我々狗神憑ノヨウニ傷ヲ治癒シタダト!?」
砂蜘蛛は自身が怪物だということも忘れ、目の前の事態にただ困惑と驚愕するだけだった。
狩人は地面を蹴る。砂蜘蛛に向けて走り出した。
「オノレ!」
砂蜘蛛は地面を摩って砂の走狗を数匹走らせる。驚きはしたものの、戦意喪失するほどでもない。目の前の敵が回復したのは、恐らくあの注射器が原因。ならばこそ、あれを使う間も与えずに始末してしまえばいい、そう考えていた。
このように走狗の弾幕を張れば安全な距離から攻撃ができ、更に付け入る隙はいくらでも作れる。
その筈だった。
「ハッ!?」
狩人は避けていた。砂の走狗を、一匹残らず、掠りもせず、全てを紙一重で避けていた。さらに避けながらも前進することを止めず、確実に、しかも素早く砂蜘蛛に近づいてきていた。
「マサカ! 先ホドノ一回デ俺ノ走狗ノ動キヲ見キッタト言ウノカ!?」
そう、狩人はほんの短い攻防で砂蜘蛛の攻撃パターンを読んでいた。何体もの恐ろしい敵と戦い、時には殺されてきた狩人にとって、ほんの八十年生きた程度、更に大部分を大旧杜の中で腐っていたような獣など、子供と遊んでいる程度の感覚なのだ。
そして入った、射程距離内。すかさずノコギリによる連続攻撃。
「グッ!」
砂蜘蛛は一歩下がろうとする。極近接戦闘で体力が回復した狩人に勝てる見込みはない、ここはノコギリの射程距離内から離れ、射程は短くなるが強力で回避難度の高い砂の走狗で面攻撃を行う。勝算はそれしかなかった。
「離レタ! ブッ殺シテ―――」
足が地面に着き、最大の走狗を発動するために後ろに手を引いた次の瞬間。狩人のノコギリが振るわれる。それはただむなしく空を切るだけかに思われた一撃だった。
だがなんと、ノコギ
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