古狗
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に自分を磨く。そしていつか、『あの女』を我が物とするのだ。そう心に誓った。
「ン?」
ふと、砂蜘蛛の鼻に匂いが漂ってきた。それは他の下っ端獣も感じ取ったようで、皆が洞穴の出口の方を見る。
血の臭いだ。それも濃厚で、芳醇な、いままで嗅いだこともないようなうまそうな香りだった。
砂蜘蛛は思わず飛び出しそうになるが自分を抑えた。この匂い、間違いなく超一級の女の匂いだ。例えるならば、吉原の娼館で乱れる花魁のような、男を酔わせる魔性の香りであった。
だが、そんな上等な女の匂いが今になって突然現れたりするわけがない。そんなのがいるのなら真っ先に自分が下っ端から奪い取るからだ。あまりにも不自然すぎる。あまりにも唐突すぎる。
―――ハフッ、ハフッ、タ、タタ、タ、タマラネェ……
「マ、マテ!」
自制効かぬ下っ端どもは先ほどまで貪っていた肉を放り出すと、皆が我先にと洞窟の出口までなだれ込む。頭である砂蜘蛛の命令も振り切って走る様は愚か者という他あるまい。
―――ギャアアアァァァ……!
聞こえてきたのは女性の悲鳴ではなく、獣の断末魔であった。
―――ギャアアアァァァ……!
それも一つや二つではない。三つ、四つ、五つと、どんどん上がっていく。そしてその悲鳴は次第に大きくなってくる。
―――ギャッ!
砂蜘蛛は出口から自分に向けて飛び出してきたものを掴んだ。見ると、それは先ほどまで自分の下っ端であった獣の頭部の上半分であった。断面を見ると荒々しく摩れている。
犬上の手のものではないかと考えがよぎったが、それはないだろう。奴らの得物は鋭利な刃を持つ刀であり、切り口はもっと綺麗になる。このような雑な傷は、恐らく斧やナタのようなものだろう。
―――ガシャン
出口通路の暗闇からの悲鳴が途絶えたかと思えば、今度は金属がぶつかり合うような音が聞こえてきた。その後は、かつん、かつん、と、靴の音が洞穴に響き渡る。
そして現れたのは、擦り切れた翼のような帽子にコートを羽織った男。右手にはノコギリが、左手には散弾を撃ちだす古式銃がにぎられていた。
狩人だ。
「貴様カ……! コノ俺様ニ喧嘩ヲ売ッタ馬鹿ハ……!」
―――ウォォォオオオオ!
砂蜘蛛は天井を仰ぎながらの遠吠えを発する。すると空気が揺れ、地面の砂が波紋のように広がった。臨戦態勢。
「ブッ殺シテヤロウ!」
砂蜘蛛が駆ける。四つん這いになるその姿はまさに犬だ。
狩人が地面を蹴る。ステップを重ねることにより瞬間的に加速をつけながら砂蜘蛛へと接敵する。
―――ガアァッ!
砂蜘蛛の攻撃。丸太のような剛腕の爪から繰り出されるのは岩をも斬る斬撃だ。狩人は瞬間的に体勢低くしてそれを避ける。砂蜘蛛は
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