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手のなる方へ
1部分:第一章
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「神社ね」
「神社に行かないといけないのよね」
「そうよ。ほら、村長さんが言ってたじゃない」
 村で代々庄屋をしていた家だ。それが村長となったのだ。つまりここでも昔からの流れが続いているのである。何処までもそうであった。
「皆そろそろ」
「神社に集まってね」
「何をするのかしら」
「さあ」
 恭子の問いに首を傾げる須美であった。
「私知らないわよ」
「私も」
 それは恭子も同じであった。二人共知らないのであった。
「ただ神社に行くって聞いてるだけでね」
「他は何も知らないわよね」
「何なのかしら」
 また首を傾げる二人であった。
「神社に集まって。何をするのかしらね」
「洋子さんいたじゃない」
「ええ」
 二人の一学年上の先輩である。
「あの人に聞いたんだけれどね」
「何て仰ってたの?」
「何も」
 恭子の返答は実に素っ気無いものであった。少なくとも二人にとって役立つものは何もなかった。須美も今の恭子の言葉を聞いてまた首を傾げるだけであった。
「聞けなかったわ」
「けれど洋子さんって去年神社行かれたのよね」
「ええ、そうよ」
 このことははっきりと言えた。恭子にも。
「それは間違いないわ」
「けれど何で何があったのか知られないの?」
「それがわからないのよ」
 やはり首を傾げて答える恭子であった。
「覚えていないんだって」
「他の人達もそうかしら」
「洋子さんだけじゃなくてね」
 恭子はコントローラーをいじっていた。しかしそのいじる様子がどうもあまり速いものではない。やっているゲームは見れば恋愛育成ゲームである。だからであろうか。
「他の人達も同じだったわ」
「同じだったのね」
「ええ、皆同じ」
 また須美に答えるのだった。
「同じなのよ、色々な先輩に御聞きしたけれど」
「誰も覚えておられないのね」
「そうなのよ」
 ぼんやりとした調子でまた須美に答えた。
「困ったことにね」
「誰も知らないなんて有り得るのかしら」
 須美はそのことが不思議でならなかった。
「先輩皆よね」
「そうなのよ。誰も知らないのよ」
「おかしいわよ、それ」
 須美は顔を顰めさせて言った。
「そんなことって。誰一人として覚えていないなんて」
「おかしいわよね。けれど」
「誰も覚えていないのね」
「二つ上の人達も三つ上の人達もそうよ」
「その人達も同じなのね」
「ええ、誰一人として覚えていないのよ」
 またこのことが話されるのだった。聞いている須美も話している恭子もそのことがどうしてもわからないのだった。何故誰も覚えていないのか。

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