5部分:第五章
[2/2]
[8]前話 [9]前 最初
ップにコーヒーはなかった。何時の間にか全部飲んでしまっていた。残っているのはカップに僅かにあるコーヒーの残り模様と微かな残り香。それだけであった。
「もう一杯如何でしょうか」
「宜しいのですね」
「ここではコーヒーは無料です」
気前のいいことを言ってくれた。
「ですから。遠慮なさらずに」
「そうですか。宜しいのですね」
「是非」
こうも言われて勧めてくれたのだった。
「お飲み下さい。またウィンナーでしょうか」
「宜しければ」
本当にウィンナーは好きだ。二杯もいただけるとは恐悦至極な程であった。
「御願いします」
「はい、それでは」
「それでですね」
今度は僕が話を変えてきた。今まさに立ち上がろうとしていた杉原さんに対して。杉原さんも動きを止めて僕に応じてくれたのだった。
「もう一つ御願いがあるのですが」
「何でしょうか」
「田山さんの絵です」
僕が言ったのはこのことだった。
「宜しければもっと見て宜しいでしょうか」
「ええ、勿論ですよ」
その穏やかな笑みで僕に答えてくれた。
「是非共。それが私の仕事ですから」
「そうですか。それでは御言葉に甘えまして」
「さらに申し上げるなら」
今度は杉原さんの言葉の番だった。
「お買い頂ければ何よりです」
「残念、そこまで僕は裕福ではないので」
「お安くしますよ」
「いや、それでもです」
「まあそう仰らずに」
最後はにこやかに話が終わった。思えばまことに不思議な話だ。しかし田山さんは絵により怨みを晴らした。そのことだけは決して忘れることができなかった。何時までも何時までも。
絵に込められたもの 完
2008・8・11
[8]前話 [9]前 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ