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月下に咲く薔薇
月下に咲く薔薇 13.
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 目が合った途端、ロックオンが厳しい眼差しのまま「まだ起きなくていい」と、クロウの右肩を上から軽く押さえつけた。
 どうやら仰向けの状態で体を投げ出しているらしく、後頭部と背中、そして太股の裏に固く冷たい床の感触がある。重力下特有の圧迫感を感じつつ、か細い記憶の糸を手繰り、ようやくここがバトルキャンプの中なのだと理解した。
 しかし、通路で1人天井を仰ごうと寝転がったのでもあるまいに。今尚不安を残すロックオン、ミシェル、クラン、そしていつの間にか加わっているクラッシャー隊のミカ、ナオトの表情を、クロウは力のない笑顔で受け止めていた。
 まるで他人事のように。
「おいおい、そんなにびっくりした顔をすんなって。…もしかして、俺は目を回したのか? 最近、飯ならちゃんと食ってるんだが」
「お前が倒れるくらいで、俺達が驚くと思うか?」ロックオンが、少々手厳しい返答から入る。「いきなり消えて、現れたんだ。しかも、気を失った状態でごろっと。その間、ざっと40秒。…もし、あと20秒経ってもいなくなったままなら、この通路は人で溢れ返ってたぞ」
「消え…」る訳はない。言い返そうとしたが、クロウのそれは声にならなかった。
 クロウの消失に仲間達が動揺している間、当の本人が何を体験したのか。おぼろげな記憶が幾つか残っている。尤も、40秒程度の極短体験ではないとの確信付きでだ。
 透明感のある青い世界。重力に引かれるように落下を続け、空間の底を自分で決めて降り立つ奇妙な展開。そして、見たものと感触が合致しない不具合…。目が覚めてしまえば夢と片づく不条理な怪現象が、クロウの中で次第に現実感を伴い蘇ってくる。
 あの全てが40秒?
 いや、絶対に7〜8分程度は費やした筈だ。巨大な手に掴まれ窒息しかける瞬間まで。
「なるほど…。それで手か」
 横になったまま左の頬を左手で撫で、頬に残る痛みと呼びかける声が自分を救ったのかとクロウは考えた。他にも、はっきりと思い出すべき事があるように思う。だが、生憎と体の痛みに気を取られ、なかなか思考が定まらない。
 いや、これはむしろ体が凍りつつある辛さなのか。
「手?」ロックオンが自らの右手を見つめ、彼なりに合点する。「ああ、まだ痛むのか? 悪いとは思ったが、緊急事態だったんでな。少しばかり派手にひっぱたかせてもらった」
「サンキュー。おかげで無事戻って来れた。…指5本分で狙い撃ってくれたんだな。でなけりゃ、俺は今でもあの場所だ」
「はぁ…?」
「まぁ、それはいいとして。…そろそろ場所を移さないか? だいぶ体が冷えてきた。固いし寝心地が今一つだ」
 ロックオンとミシェルが視線を交わした後、隻眼の青年がクロウの手を引き上体をそっと起こす。
「どうだ? 目が回ってる感じはするか?」
「問題ない。たとえ、ふらついたとして
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