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ソードアート・オンライン 穹色の風
圏内事件 5
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「さて。ご用向きは一体何かな?」
「二人で話がしたい。どこか場所はあるか?」
「それならば、私の部屋に来たまえ。案内する」

 音もなく歩き出したヒースクリフにマサキが続く。案内されたのは、会議室よりさらに数階上がったフロア、この尖塔の最上階だった。会議室と同じく大仰な扉をヒースクリフが開け、中に入る。こちらは部屋中に赤い絨毯が敷かれ、調度品の全てに高級そうな装飾が施されている。先ほどの会議室より暮らしやすそうではあるが、やはりお世辞にも趣味が良いとは言えないなとマサキは思った。

「さて、では話とやらを聞かせてもらえるかな。私に会議を放り出させてまでしたかった話とやらを、ね」

 部屋の奥に設置された執務机に座ったヒースクリフが問う。

「質問を一つさせてもらいたい。異性と婚姻関係にあるプレイヤーが死亡した場合、そのプレイヤーが持っているアイテムはどう処理される?」
「それは、一昨日発生したという事件に関係しているのかね?」
「まあな。で? どうなんだ」

 マサキが食い気味に言うと、ヒースクリフは「ふむ」と呟きながらテーブルの上で両手を組んだ。

「その場合の処理は、戦闘結果(リザルト)時に発生したアイテムドロップが所持容量限界を超えた場合などと同一だ。一方のプレイヤーが死亡した時点でストレージは縮小され、所持容量を超過した分のアイテムは、所有権を持つもう一人のプレイヤー――つまりは死亡したプレイヤーと婚姻関係にあったプレイヤーの足元にドロップする。……これでいいかね?」
「……ああ。十分だ」

 マサキは静かに答えると、切れ長の瞳を厳しく細めた。そして、小さく鼻から息を吐きながら軽く目を伏せる。
 マサキたちの推測は、ここまでは的中していた。つまり、レッドプレイヤーによるシュミットたち襲撃の可能性も高まったということだ。
 マサキは無意識に左手で自分の右手を掴んだ。背中から右手にかけて、何か冷たいものが這い回っているような感触だった。

「忙しい中、協力をどうも」
「ああ、待ちたまえ」

 マサキが足早に部屋を去ろうとすると、ヒースクリフに呼び止められた。一瞬鬱陶しそうに顔を歪めるが、振り返る瞬間にはいつものポーカーフェイスに表情を塗り直す。

「何か?」
「私からも一つ、質問をさせてもらいたい。……大事な会議を抜け出したのだ、それくらいの要求はできて然るべきではないかね?」
「スリーサイズなら断るが」
「それは残念だ。……いや、もちろん冗談だがね」

 マサキが冗談を飛ばすと、ヒースクリフは微かに口元を持ち上げた。すぐにいつもの冷淡な表情に戻すかと思いきや、意外にもそのままの口角で続きを紡ぐ。

「単刀直入に言う。君は何故そこまで、この事件に執着する?」
「……何?」


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