圏内事件 5
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面ガラス張りの壁際にはギルドの旗が交錯するように立てかけられている。かつかつと乾いた音を立てて中に入ったマサキに、卓に付いていた全員の視線が集中した。驚愕の色が殆どを占める中、真ん中に座るヒースクリフの真鍮色の双眸だけが、微かに興趣の色を滲ませてマサキを覗いていた。
「なッ……貴様、何者だ! どうやって入ってきた!!」
「マサキ、ソロだ。……お忙しいところ悪いが、あんたたちに用はない。団長殿をお借りする」
「なん……ッ!?」
向かって左端の丸顔の男が強烈に机を叩いて立ち上がるが、マサキが冷淡にも聞こえる抑揚の少ない声で告げると、男はまるで酸素を欲する金魚のように、顔全体を赤熱させながら口をパクパクと開閉した。その目に驚愕、混乱、そして憤慨が激しく入り混じり、やがて憤慨に固定されたのだろう、怒気を抑えるつもりもない様子で怒鳴り散らした。
「ソロ風情が、戯言もいい加減しろ! おい、誰か! こいつを今すぐつまみ出せ!!」
その言葉を合図に、近くで控えていたらしい男が数人飛び出してきてマサキを取り囲む。が、マサキはそれに目もくれず、真正面に座るヒースクリフをじっと見続けていた。
圏内ではアンチクリミナルコードの適用によって、ある座標に自分の意思で静止しているプレイヤーを、他のプレイヤーが強制的に移動させることは不可能になる。もし強引に移動させようと腕力に訴えれば、それをシステムが検知してハラスメント警告を出し、それでも続けようとした場合には被害者の意思で相手を黒鉄宮に送致することが出来てしまうためだ。
つまりこの場合、マサキを強制的に排除しようとすれば逆に彼らがハラスメント加害者として送致されてしまうのだ。それが分かっている衛兵は、マサキを取り囲みながらも困ったような顔を浮かべる。
こうなった以上、二度と血盟騎士団の連中とはパーティーを組めないだろうな、などと考えつつも――もとより組むつもりなど毛頭ないが――、マサキはヒースクリフから目を離さない。
二人の視線が静かに交錯する。
これが他のギルドであれば、マサキもこのような無茶はしなかっただろう。したとところで、門前払いを喰らうのがオチだ。だが、ヒースクリフは違う。この男なら、怒るよりむしろ面白みを感じて誘いに乗ってくるのではないか――マサキはそんな算段を抱いていた。
「何をしている! さっさと――」
「いや、いい。……装備の調達は方針通りに。私は少し出てくる」
「なっ、団長!? 会議よりこんな奴を優先されるのですか!?」
案の定、ヒースクリフは席を立ち、真紅のローブで包んだ長身をコンパスのように立てて歩いてきた。先ほどの幹部らしき男はまだ何事かを喚いていたが、ヒースクリフが命ずるとマサキを囲んでいた衛兵たちもその指示に従って下がっていった。
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