圏内事件 5
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でキリトたちが話し合うのを、マサキは腕を組みながら黙って聞いていた。頭の中で、幾つかのパターンが並列的に展開され、計算される。
エミたちの懸念はもっともだった。ここに集まっているメンバーは、間違いなく攻略組でも上位の実力者だろう。が、恐らく足手まといになるであろうヨルコとカインズを守りながらレッドギルドと渡り合うのは――しかも、聖竜連合幹部のシュミットがいると知った上で襲撃を掛けるような――厳しいものがある。
それに、プレイヤーを“殺す”ことと、所詮プログラムの集合体であるモンスターを狩るのとでは、感じる忌避感に大きな差がある。非常に詮無きことではあるが、マサキはこの二日間で、この三人が気のいい連中で、何処にでもいるような普通の少年、少女たちであることを見てきてしまっていた。
そんな彼らが、殺人犯とは言え、人を斬れるだろうか?
例え斬れたとして、その後彼らに圧し掛かる罪悪感を、彼らは背負いきれるだろうか?
その罪悪感を背負ってもなお、彼女は――光沢のある黒い瞳を楽しそうに細め、はにかむような笑顔を浮かべながらいつも玄関先に立っている彼女は。そのままの笑顔を、浮かべ続けていられるだろうか……?
「…………」
マサキは表情を変えないままに一度肺から息を抜くと、微かに目を伏せるようにして立ち上がる。
「マサキ君?」
「キリト、アスナ。攻略組をできるだけ掻き集めて十九層で待機していろ。ストレージの件が分かったら、インスタントメッセージで結果を伝える。もし予想通りだったら、そのまま現場に向かってくれ」
「分かったら……って、団長は今メールを返せないわ。それに、あなたはどうするのよ」
「決まってる」
マサキは三人に背を向け、部屋のドアを開けた。そこで立ち止まり、首だけで振り返る。
「メールが駄目なら、直接聞き出すしかないだろう。時間が惜しい。手遅れになる前に、お前達もさっさと動け」
ほんの少しだけ両目を厳しく細めてマサキが言う。直後、ひゅっ、と空気の流れる音がした頃には、マサキは一階に続く階段を駆け下り、軽い足音と風切り音を本人の体より僅かに長くその場に残しながら宿の外へ飛び出していた。
空を覆う次層の底を貫くようにそびえる漆黒の尖塔。アインクラッド最強と名高い《血盟騎士団》本拠地の上層フロアを丸々使った会議室。《ブラストウイングコート》の持つ「一日に三十分だけ身体を透明にできる特殊能力」に《忍び足》スキル等、露見すれば非難は免れないであろう非マナー行為を駆使してその前まで辿り着いたマサキは、ギルドの意匠が大きくあしらわれた、趣味の悪い鉄扉を開け放った。
外観と同じく漆黒の鋼鉄で覆われたその大部屋は、中央に半円形の巨大なテーブルが置かれているだけの寒々とした部屋だった。全
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