圏内事件 5
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黄金林檎のメンバーだったら、やっぱり売却派に入ったと思うよ。アスナは?」
キリトが訊くと、アスナは目線すら動かすことなく即答した。
「ドロップした人のもの」
「へっ?」
「KoBはそういうルールにしてるの。パーティープレイでランダムドロップしたアイテムは、全部それを拾ったラッキーな人のものになる。だってSAOには戦闘経過記録がないから、誰にどんなアイテムがドロップしたかは全部自己申告じゃない。ならもう、隠匿とかのトラブルを避けようと思ったらそうするしかないわ。それに……」
アスナは何かに想いを馳せるように言葉を切り、窓の向こうを見つめながらも顔の端を少しだけうっとりとほころばせた。
「……そういうシステムだからこそ、この世界での《結婚》に重みが出るのよ。結婚すれば、二人のアイテム・ストレージは共通化されるでしょ? それまでなら隠そうと思えば隠せたものが、結婚した途端に何も隠せなくなる。逆に言うと、自分にドロップしたレアアイテムを一度でもねこばばした人は、もうギルドメンバーの誰とも結婚できない。《ストレージ共通化》って、凄くプラグマチックなシステムだけど、同時にとってもロマンチックだと思うわ」
かの《血盟騎士団》副団長、《閃光》アスナのイメージからは程遠い――彼女もまた、同世代の女子となんら変わらない、ごく普通の女の子なのだと感じさせるような声。それに動揺したのか、数秒後、約束事のようにキリトが地雷を的確に踏み抜く。
「そ、そっか、そうだよな。じゃ、じゃあ、もしアスナとパーティー組むことがあったら、ドロップネコババしないようにするよ俺」
直後、ガタンッ! と椅子を倒しながらアスナが立ち上がった。真っ赤に赤熱した顔に幾つもの感情をとっかえひっかえ浮かべた後、羞恥と怒りが混ざり合ったような顔で右手を振り上げた。
「ば……バッカじゃないの! そんな日、何十年経っても来ないわよ! あ、そ、そんなっていうのはつまり、きみとパーティー組む日ってことだから。変なこと想像しないでよ!」
「ぷっく……ふふっ……」
「ち、ちょっとエミ、笑わないで!」
「あはは、ごめんごめん。アスナもそういう反応するんだなって思ったら、おかしくて」
機関銃の如く怒鳴ったアスナを見て、エミが口元と腹部を押さえて吹き出した。その反応にアスナはつんと顔を背け、流石に少しは傷ついたらしいキリトが口を尖らせて黄昏れる。
その間に流れる空気はすっかりと弛緩し、交わされる言葉は普段どおり――いや、普段よりいくらか打ち解けたものになっている。しかしその中で一人、マサキだけはその光景を横目に見つつも渋い表情を崩さなかった。より正確に言えば、その会話を聞いて一層眉間のしわが深まっていた。
「……なあ、アス
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