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絵に込められたもの
2部分:第二章
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第二章

 田山は大学にいた頃から素晴らしい画家として知られていた。彼の友人である老人、名前は杉原御舟といった。彼は実家の画廊の経営を継いでその職から彼の助けとなっていた。二人の仲は親密なものでかなりいいものだった。お互い家庭も設け家族ぐるみの付き合いにもなった。しかしそれが急に終わったのだった。
 それは突然のことだった。田山が杉原との話を終えて己の仕事場でもある自宅に帰ってみるとそこにあったのは。無残に殺され鮮血の中に横たわっている彼の家族がいたのだ。
 これは忽ちのうちに大騒ぎとなり杉原も血相を変えて田山のもとに来た。彼はもう息をしていない家族を見下ろしたまま呆然としていたのだった。時折後ろにある大きな鏡をちらりと見ながら。
「田山・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 田山は彼の声に応えなかった。応えられなかったと言うべきか。何が起こったのか把握できなかった。把握したくなかったと言い換えられるか。少なくとも彼は今完全に心を失ってしまった。そうならざるを得ない状況になってしまっていたのだ。
 数日間取調べが続いた。犯人についてもそれは行われたがそれは難航しとても見つけられそうになかった。知人が徹底的に調べられたがそれでもだった。犯人が誰で何の目的の為に彼の家族を殺したのか。それが全くわからなかったのだ。
 杉原は呆然としたままの田山を何とか必死に慰めた。これは友情から来るものだった。しかし犯人は見つからずその慰めは無駄なものになろうとしていた。しかしある時不意に。茫然自失のままで抜け殻になっていた彼が突如として動きだしたのであった。
「!?どうしたんだ」
「許さん」
 虚ろな顔であったが彼は確かに言ったという。
「許さん。あの女」
「あの女!?」
「そうだ、あの女だ」
 彼は言うのだった。
「あの女、許さん」
「あの女!?誰なんだそれは」
「私にはわかる」
 彼は何時の間にかキャンバスの前に立っていた。家族を殺されてからずっと筆を持たなかった彼が突然だった。そして描きはじめた絵は。
「何っ、その絵は」
「あいつだ」
 田山は驚く杉原をよそに描いていた。だがその絵は彼が知る田山の絵ではなかったのだ。
 幻想的な、あまりに幻想的でまるで美しい夢の世界の様な普段の彼の絵ではなかった。人物画だったが縦に線が無数に入りそして顔は醜く歪みまるで妖怪の様だった。首も何もかもが不自然な程に曲がっており人間とは思えない程だった。少なくともそれは彼が普段描いている絵とは全く違ったものだった。
「それは人間を描いているのかい?」
「そうだ」
 田山の顔が変っていた。その絵を描いているうちに虚ろだった目が血走り顔全体も幽鬼の様に変わり果ててしまっていた。痩せこけ、目だけが爛々と輝いていたのだ。
「人間だ。あいつだ」

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