1部分:第一章
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ーコーヒーは僕の大好物だ。だからそれに乗った。
「では御言葉に甘えまして」
「コーヒーはやはりウィンナーですよね」
老人は笑顔でコーヒーについて述べてくれた。席に座り届いたコーヒーは二つ共ウィンナーだった。どうやらこの人もまたこのコーヒーが好きらしい。
「さあ、どうぞ」
「有り難うございます」
コーヒーのそのかぐわしい香りが辺りを支配する。コーヒーの上に渦を巻いて奇麗に置かれた白クリームを最初に口の中に含みその甘さを楽しみながら残ったクリームをコーヒーの中に浸してかき混ぜる。するとコーヒーの黒が瞬く間にブラウンになっていくのだった。
そのブラウンは老人のものも同じだった。見れば同じ食べ方だった。
「同じですね」
「ええ」
お互い笑みを浮かべ合って言い合った。
「やはりウィンナーはこうして飲むものですね」
「はい。まずクリームを食べてからコーヒーを飲み」
「ですね。それからです」
「ええ。それで」
ここで僕は話を切り出した。話は決まっていた。
「あの絵のことですが」
「それですか」
「そうです。何があったのですか?」
話が出て強張った彼に対してあらためて問うた。
「あの絵に。何が」
「実はですね」
老人は僕の言葉を受けて静かに口を開きだした。
「私は。彼の友人でした」
「田山洋一郎のですね」
「はい、そうです」
僕の問いにも答えてくれた。
「学生時代の。大学からの知り合いでして」
「大学からのですか」
「芸術大学の同期でした」
思わぬ関係だった。田山が芸術大学出身で学生時代から素晴らしい才能を見せていたことは知っていたがこの老人がその彼と友人だったのは本当に意外だった。
「親友といってもいい関係でした」
「それだけの関係でしたか」
「その親友が見たことです」
語る老人の顔が真摯なものになった。
「それを今からお話させて頂きます」
「はい」
老人のその言葉に頷いた。こうして僕は老人の話を聞きはじめた。それは実に恐ろしくかつ陰惨な話だった。この世にあった話とはとても思えないまでの。
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