巻ノ十六 千利休その三
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「誰もが」
「町人達もか」
「そうお考えなのです」
「そうか、誰もが茶をか」
「楽しめればとお考えなのです」
「そうしたお考えとはな」
「驚かれましたか」
「少しな」
実際にとだ、幸村は小坊主に答えた。
「利休殿は茶の道を極められることをお望みと考えていたが」
「それと共にです」
「茶を広めて」
「そして誰もが広めることもか」
「お考えなのです」
「大きいな」
「はい、旦那様の思いはとてつもなく大きいです」
小坊主は笑みと共に幸村に答えた。
「誰もが茶を飲めることをお考えなのですから」
「茶が天下を変えるか」
「旦那様は天下人になるおつもりは全くありませぬ」
「しかし天下にじゃな」
「茶、そして茶の道を備えさせようとお考えなのです」
「そういうことか、ではな」
「はい、これよりです」
その利休と会うことになるとだ、小坊主は告げた。ここでだった。
一行はその利休が待っている茶室の前に来た。屋敷はとてつもなく大きいが茶室は小さい。それで大柄な清海が言った。
「ふむ。茶室はな」
「小さいと」
「うむ、随分とな」
「茶室はです」
それはというと。
「小さいのです」
「そうなのじゃな」
「茶の道は質素、そこにあるものは侘寂なのです」
「わしも茶の道ではその言葉をよく聞くが」
清海はまた言った。
「利休殿は御自ら実践されているか」
「言葉には動きが伴わなければならない」
「だからか」
「はい、茶室はこうなのです」
「わかった、ではな」
清海はその小さく質素な外見の茶室を見つつ小坊主に応えた。
「これより中に入りな」
「旦那様とお話下さい」
「ではな」
「これは」
伊佐は茶室の入口の花に気付いた、一輪の小さな白い花だ。
その花を見てだ、神妙な顔で言った。
「これは」
「旦那様が飾られた花ですが」
「ここに植えられているだけですが」
「はい、摘むのではなくです」
「あえて植えられたのですか」
「そうです」
「成程、摘まれた花はすぐに枯れますが」
伊佐はその花と茶室を交互に見つつ述べた。その普段から穏やかな目がさらに優しげなものになっている。
「根があるままですと」
「咲き続けます」
「一時の美よりもですな」
「長くと考えられてです」
「ここに置かれたのですか」
「そうです」
「しかも一輪」
その小さな白い花がだ。
「それがまたよいですな」
「一輪の小さな花ですが」
「それが茶室の前にあるだけで」
「茶室の侘寂までも際立たせていますな」
「旦那様はそのこともお考えなのです」
「深いですな」
伊佐はしみじみとして言った。
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