巻ノ十六 千利休その一
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巻ノ十六 千利休
一行は堺の中でもとりわけ大きな屋敷の前に案内された、清海はそのとてつもない大きさの屋敷を見て思わず声をあげた。
「これはまた」
「でかい屋敷じゃのう」
猿飛も唸って言う。
「わしもそう思った」
「そうじゃな」
「わしの家は山奥にあってな」
「伊予のじゃな」
「そうじゃ、粗末な家でな」
「わしなぞずっと家がなかったぞ」
清海はこう猿飛に返した。
「托鉢で食っておった」
「それと用心棒でじゃな」
「そうしたので生きておったからな」
家なぞはというのだ。
「なかったわ」
「そうであったな」
「うむ、しかしな」
「利休殿のお屋敷はな」
「城ではないか」
「まさに御殿じゃ」
城か御殿、そこまでの大きさだというのだ、見れば屋敷だけでなく庭も広く実に見事なものである。
「堺でもな」
「とりわけ見事じゃな」
「全くじゃ」
「こちらにです」
小坊主がここでまた言って来た。
「旦那様がおられます」
「そうじゃな、ではな」
「はい、これより門を通り」
そしてとだ、小坊主は幸村に応えて述べた。
「お屋敷の中で、です」
「利休殿とじゃな」
「お会いして頂きます」
「そうじゃな」
「はい、ではこれより門を開けますので」
見れば門の左右には人が控えている。小坊主はその者達と話をしてそうしてだった。門を開けてもらってだった。
一行は屋敷の中に入った、その庭を実際に見てだった。
霧隠はその整った目をはっとさせてこう言った。
「これは」
「如何でしょうか」
「実に整っておる」
「草木も庭もですな」
「見事じゃ」
「そうなのか、わしには普通に見えるが」
望月は霧隠にこう返した。
「至ってな」
「いや、それがじゃ」
「違うというのか」
「うむ、この庭はじゃ」
まさにというのだ。
「考えられた庭じゃ」
「考えられているとは」
「草木や花の種類や置く場所、池の中にいる魚や亀までな」
「全てか」
「考えられて配されている」
「そうした庭なのか」
「一見すると自然、しかしな」
それがとだ、また言った霧隠だった。
「違う。ただ増えればそれでよいとしておるか」
「旦那様は人の手と自然のものの双方をいつも見ておられます」
小坊主は話す二人に顔を向けて微笑んで述べた。
「ですから」
「それでなのか」
「はい、庭もです」
「こうしたものであるか」
「左様です」
霧隠に応えての言葉だ。
「そうなっています」
「そうなのじゃな」
「そして旦那様はです」
小坊主は今度は利休のことを話した、彼の主のことを。
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