一話:正義の味方
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八神家の家事ははやてが中心となって動いている。
そもそも親が手伝うという時点で何かがおかしいのだがはやては気にしない。
自分で出来ることは自分でするが彼女の信条なのだ。
「まあ、ええわ。そろそろご飯作るから車椅子に乗せてくれん?」
「ああ、そうだね。僕も手伝おうか?」
「うーん、今日は簡単なものやからおとんは座っててええで」
「……はやていつも思うんだけどこういうものは大人がやるべきものじゃないのかい」
「美味しく作れる方がやるのが一番やろ」
「……そうだね」
大人としての尊厳を保つために暗に今日は自分がやろうという切嗣だったがどうしようもない事実を突きつけられて頷くしかない。
どういうわけかはやては料理が上手い。まだ小さい頃は切嗣が作っていたが少し教えてやるとあっという間に吸収して切嗣の腕を越えてしまったのである。
そのことに情けなさを感じるものの自分では何もできないのでソファに腰を下ろし溜息を吐く。
どこからどうみてもダメ親父である。
「……そろそろか」
「なんか言ったか、おとん?」
「いや、そろそろはやての誕生日だと思ってね」
「なんや、そんな話か。別にたいそうなもん用意せんでええよ。おとんと暮らせてる今で十分幸せやから」
「そっか……」
背を向けたままはやての言葉に短く返す切嗣だったがその顔は様々な感情から歪んでいた。
このままでは食事中にも表情が出るかもしれないと思い立ち上がり外に出て行く。
「おとんどこに行くん?」
「ちょっとタバコを買ってくるよ」
「タバコ吸っとったけ?」
「昔吸っていてね。ちょっと無性に吸いたくなったのさ」
「ふーん。ま、あんまり吸い過ぎんようになー」
はやてに見送られて家を出る。そして近場の自販機でタバコを買い公園のベンチに座る。
もう日も暮れていたこともあり辺りには人はいない。
そのことを確認したうえで火をつけ煙を吸い込む。
暗い空に消えていく白い煙を見ながら一人自嘲する。
「……僕以上に最低の父親もいないだろうな」
そう呟いて悲しみに揺れる目を閉じる。
再び目を開けた時には何も映していない、死んだような目になっていた。
そこに一匹の猫が近づいて来る。
切嗣はその猫に一瞥もくれることなくもう一本タバコを手に取る。
(ロッテ、そろそろ闇の書の覚醒も近い)
(分かった。こっちも備えておく。……でも、いいの?)
(何がだい?)
(何がって、娘を闇の書ごと―――永久凍結するんだよ!)
念話で猫の姿に擬態している使い魔リーゼロッテと会話をする切嗣。
ロッテの叫び声にも切嗣は眉ひとつ動かさずに口から煙を吐き出す。
その姿からは感情が欠片も見受けられずどこか不気味さを感じさせる。
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