第四話 誘惑と驚愕 その一
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の些事を頭の隅に追いやり、夫婦剣を握った腕を、だらりと重力に任せおろした。
無形の構え、というやつだ。
そこから、
「ふっ!」
左の陰、干将を左から切り上げる。切り上げた直後腕を返し、今度は袈裟懸け。
間髪入れず、空いた空間に右の陽、莫耶を突き込み、突き通した瞬間には、既に剣は右に薙いでいる。
片方が斬撃を放ち、終わった瞬間に出来た隙間に、さらにもう片方を滑り込ませる。
傍目には、アーチャーがまるで踊っているかのような状態に見えたことだろう。天才だ、と持て囃したことだろう。
だが、達人クラスの人間が見れば、その剣技に才能など欠片もなく、ただただ、素朴に、純粋に努力と研鑽のみで構成された、美しくも泥臭い、そんな感想を抱いたことだろう。
自己流の型、のようなものがひと段落し、アーチャーは一つ、息を吐く。
「すぅ……はぁ――――ッ?」
そして、その瞬間アーチャーの雰囲気が変わる。
目の前に仮想の敵を脳内で再現し、彼は戦闘の用意を整えた。
その時だった。
警告
謎のルーン魔術の発動を確認。
再び、世界がアーチャーに置き去りにされ、その速度を忘れる。
(……!?なんだ……?発動した?何故、いや、そうか!)
その時、アーチャーはルーンの発動の条件。それを完全に理解した。
トリガーだと思っていた、剣を握るというアクションは、その実、一つのファクターに過ぎなかった。真の撃鉄は、自身の心。
敵を前に、己を変えずして、変えるもの……すなわち、戦意である。
考えてみれば、あの時も、いかに動きがとろくかったとはいえ、相手は武器を持っていた。
であれば、戦意が沸くのも当然。
(こういうのを、棚から牡丹餅というのか?……いや、状況的には一石二鳥を狙ったのだから、問題はない……のだろうか)
剣を振るいながらも、そんな余裕が沸いた。
さて、意図せずして恩恵の一つを手中に収めたアーチャー。
これだけなら、別に悲観すべき点は何もないのだが、いかんせん、タイミングが悪かった。
「……!」
庭の端、しかもはたからは死角の場所でそれを行っていたはずなのだが、
「す、すごい……?」
拡張された五感が、その呟きを拾った。
首と眼球が瞬時に動き、対象を目視にて認識する。
そこには、濃紺のワンピースと、白いエプロンを掛け合わせた仕事着、俗にいうメイド服を纏った、黒髪黒目の少女がいた。
少女は、文字通りすごいものを見てしまった、という表情を顔に貼り付け、立ち尽くしていた。
(しまった……脳内であの狗相手にハイスコアを叩きだして、いい気になっていたとはいえ、気を抜きすぎた)
そう、ル
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