閑話―各陣営―
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訳には行かず。捕らえた三人の間者は南皮方面に開放されていた。
では何故それを隠語で命じる必要があったか、それは―――
「どういう心算だ張勲!!」
『コレ』に理由があった。
執務室の扉を乱暴に開き入室したこの男、反袁紹派の一人である。
「騒がしいですねぇ……どういう心算とは?」
「何故わしの許可無く間者を始末したのだ!!」
「何故も何も、袁紹様に情報が漏れるのは皆様も望まれ――「そうでは無い!」」
張勲の返答に食い気味で割り込み、血走った目で男は続けた。
「捕らえた女の間者は、わしに一任しろと言ったであろうが!」
「……」
『コレ』である。名家の出として酒池肉林を思うままに堪能してきた反袁紹派の男達。
彼らの中にまともな人格者は少なく、特に異常性癖の者達は厄介極まりなかった。
金でどうにかなる美女に飽き、度々街に出向いては誘拐まがいの事件を起こし。
こうして尋問と称し、間者にも手を出そうとしている。
彼らに間者を預けるわけにはいかないだろう。それも袁紹に縁があるのだから尚更だ。
――とは言え、彼らを無下にすることも出来ない。
彼ら無くして袁紹の介入は防げないのだから。
「実は醜女だったのです。ですから報告するまでも無いかなー……と」
「なんと醜女であったか、では用は無い。良くやったぞ張勲」
嘘である。件の間者は美女では無いが平均的な容姿をしていた。十分この男の守備範囲内だ。
「見目麗しい間者を捕らえたら知らせよ」
「了解でーす」
慣れた様子で笑顔を貼り付け返事すると、男は満足そうに執務室を後にした。
「では張勲様、自分もこれで……」
「あ、はーい。また何かあればお願いしますね」
「ハッ」
待機していた部下にも労いの言葉を掛け、見送る。
退室した扉を見ながら張勲は思う、『やはり誰も信用できない』――と。
反袁紹派の者達はもとより、直属の家臣団もだ。
直属、聞こえはいいが彼等は、ある利害の一致から付き従っているに過ぎない。
もしその利害関係が無くなったら、あっさりと手のひらを返すだろう。
もっとも、張勲にとって理解しがたい『忠』よりは。信用に値するが――……
「……はぁ」
張勲の重い溜息と共に、話は現在へと戻る。
まるで薄氷の上を歩くかの如く、危うい均衡状態を維持してきた張勲だが、それも最近は限界を感じていた。
黄巾の乱の時である。飢餓、疫病、重税等々、様々な不満を募らせ爆発した民衆。
袁紹達は時代の流れを読んでいたかの如く、『棄鉄蒐草の計』なる大計略を見事成功させた。
それが不味かった。
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