第二百二十六話 徳川家の異変その九
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「わしに考えがある」
「と、いいますと」
「この噂を全て集めて適当に変えて何から何まであちこちで言い回るのじゃ」
「噂を変えてですか」
「適当にな、それで徳川の領内で広めるのじゃ、例えばな」
その例えとして、だ。信長はこう言った。
「山に鬼がおって女の口を裂いたとかな」
「鬼がですか」
「あと明から来た僧侶が富士に入っただの」
「そうした噂を流し」
「この噂に変えるのじゃ」
「成程」
酒井もその案に頷いて言った。
「それならです」
「噂が消えるな」
「はい」
「新しい噂に消されて」
「そうなりまする」
「鬼だの天狗だのを出すことじゃ」
信長は笑って答えた。
「そうした類をな」
「つまりあやかしの者達か」
「人がそうしたことをするよりもじゃ」
むしろだというのだ。
「あやかしの方が面白いな」
「話としては」
「酒呑童子がそうじゃ」
かつて都を乱したこの鬼の話もした。
「あれが人だと兇賊を成敗して終わりじゃったな」
「言われていれば」
「話として残らなかった、しかしじゃ」
「酒呑童子が鬼だからですか」
「だから今も話に残っておる、だからな」
「鬼や天狗のしたこととしますか」
「こうした噂はな、見れば人がするよりも鬼がしそうな噂ばかりじゃ」
信長はその噂をまた読みつつ述べた。
「それでよい、噂を消すのは噂じゃ」
「毒には毒ですか」
「そういうことじゃ、わかったな」
「さすれば」
酒井は信長の言葉に頷きそしてだった。
信長に言われたことを家康に伝える為に駿府に戻ることにした。その酒井が家から戻ってからであった。信長は。
家臣達にだ、こんなことを言った。
「これでよい、徳川家のことはな」
「徳川家を惑わした噂はですか」
「これで消えますか」
「鬼や天狗の噂で」
「それで消えまするか」
「そうじゃ、あれはどれも徳川家の毒となる噂じゃ」
信長は鋭い目で言った。
「その毒を消す為にな」
「鬼や天狗の噂に変えてですか」
「その噂を流してですか」
「そのうえで消す」
「そうされますか」
「後は竹千代に任せてよい」
家康にというのだ。
「あ奴なら後はな」
「よい知恵を出されて」
「そして、ですか」
「噂自体を消される」
「そうされますか」
「そうする、これで子の竹千代のこともな」
信康もというのだ。
「無事じゃ」
「処罰せずにですか」
「済みましたか」
「謀反の噂もあり」
「これがどうも、でしたが」
「うむ、謀反も噂位ならな」
それこそというのだ。
「何ということはない、ましてや無根とわかればば」
「処罰には及ばない」
「そうなりますか」
「それにじゃ、ここで竹千代も気付かなかったことが収められた」
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