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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十六話 内地にて
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った。
「守勢に回るにも、です」
 窪岡少将が話はじめた。
「軍監本部は、鎮台を軍に切り替え、上陸適地である龍州付近に集結、遅くとも秋までに防衛体制を整える必要があると考えています。反攻なぞ論外です。」

「まずは禁裏の意志統一が必要です」
 保胤は五将家の顔になった。
「先の通り、執政府、衆民院は揺れています。
将家を廟堂会議で押さえさえすれば皇主陛下の託宣で十分意志統一が成立します」
「執政府の取り纏めは、駒城の協力さえ貰えればどうにでもできます。
衆民出身者の殆どは攻勢に出られる状況ではないと考えてますからな。
転進作業の下拵えは我々内務と運輸が組んでやったのだ、あれ以上の規模を恒常的に用意するのは不可能だと分かりきっている。――後は二 三手札さえあれば文官達の後押しを取り付けることは何とかできますが――
これからは兵部省主導になるでしょうし。我々は左前になりますからどうも矢弾に不安がありますな。何かあると良いのですが」
 白々しい口調で保胤へとちらちらと視線を送る文官を見て実仁が苦笑する。
「おい、豊守、やはりあくどい話じゃないか。」

「左様ですか?」
 豊守も常のやや胡散臭い微笑にもどっている。
「全く貴様の息子も貴様に似ていたぞ?」
実仁が懐から書面を取出して言う
「あの男、野戦任官の少佐の分際で、水軍中佐を使い走りにし。准将に向かって後退を進言し、便宜を強請り、代価は衆民の保護と美名津市長との交渉、そして駒州公との関係強化を謳って見せたのだぞ!駒州と皇家の関係なぞあんな陪臣の若造が口にするか!?
おい、貴様、何かあったら駒城の御老公の名を出せとでも息子に教えたのか?」
無言で目をそっと逸らす父親であった。

「おい、頼むぞ。これ以上、変な伝統を引き継がせないでくれ」
 将来の駒州公が頭を抱える。脳内でどのような過去が巡っているのか、思い当たるのか同期の二人はそっと目を逸らしている。
「殿下、そんなささやかな事よりも禁裏の方は如何ですか?」
 ぬけぬけ譜代の家臣は話題を切り替える。

「――陛下は俺と同意見の筈だ。直宮もそうだろう」
実仁殿下は頬を伝う汗を拭い、言葉を続ける。
「だが、俺と直宮が同意見だからと陛下は賛成しない。まだもう一押しが要る」

「具体的には、殿下?」
 窪岡少将が急かす。
「流石に駒城の意見をそのまま採用するわけにはいかない、あからさまにすぎる。
だからこそ、ひと捻りを入れなければならん。
――北領で最後まで帝国軍と渡り合った部隊、その大隊長が武功を奏上する。奏上の間は玉心に親しく接し陛下を除き何者も止められない。前線の悲惨さを憂う皇主陛下、どうだ?」

「陛下に、そこで?」
 笑みを消した豊守准将が静かな声で尋ねる。
「そうだ。それで一切
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