二十一話
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何が書いてあるのか正直良く分からない。
確かに書いて丸暗記以外に方法はないだろうと自分でも思えてしまう。
だがただひたすらに同じことを書いていると精神が不安定になりそうだ。
直ぐにでも逃げ出したい。
リーリンの視線にレイフォンはペンを取る。
辛い、辛すぎる。
そもそもAgって何だ。銀でいいじゃないかこのやろうくそう。
ふと後ろを見ようとするとブゥンと風切り音が聞こえる。
リーリンがスイングしているのだ。
黙ってレイフォンは手を動かす。
心が摩耗していくのを感じながらひたすらに同じことを書き続けていく。
まるで機械だ。心があるから辛いのだ。
そう思いレイフォンは思考を放棄する。
自分は機械だと念じて手を動かす。
「後でテストしてダメだったとこはもう百回書いてもらうわよ」
「……」
ああ、機械になりたい。
そうレイフォンは思った。
カリカリカリカリとペンが動く音だけが部屋に響く。既にリーリンも特になにもせず立っているだけだ。
精神が死にかけているレイフォンはふと手を止め息を吐く。
手元に一極化させていた集中を緩ませ意識を拡散させる。
広がる感覚の中、それまで敢えて無視し今の今まで忘れていたそれを感じてしまう。
自然、気が堕ちかける。
「気にしちゃダメよ。……って言っても無理よね」
様子に気づいたリーリンが言う。
レイフォンに対しての優しさと現状への悲しさを混ぜた自嘲気味な声がそれへの思いを語っている。
小さく首だけレイフォンは振り返る。リーリンも咎めない。
それは視線だ。
振り返った先、部屋の扉部分。幾人かの弟たちがこちらを覗き込んでいる。
誰一人そこから中へ入ってこようとしない。見る視線からは忌避の感情が伝わってくる。
レイフォンの視線に気づいた弟たちは直ぐさま去っていく。その勢いで扉が音を立てて締まる。
ずっとこんな距離感が続いている。
弟たちからは避けられ、声をかけられることも少ない。
もっとも最初に比べればずっとマシになったほうだ。少なくとも夜部屋に一人で寝ることはなくなった。世間の反応も下火になり、露骨な嫌がらせはなくなった。壁の落書きも次の日にはなくなっていた。リーリンがハリセンを振り回すなんてテンションが少し高いのもその為だろう。
だがそれでもゼロに戻ったわけでは当然ない。
変わらず、といっていいのか分からないが孤児院の中で今でも普通に話しかけてくれるのはリーリンとアイシャ。それと口数は減ったがデルク。
院を出た上の年代の者は事情にある程度の理解があるのだろう。院に来た際に話してくれるがそもそもそこまで来ない。
自然、レイフォンは孤立す
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