第2章 夜霧のラプソディ 2022/11
20話 新たな一歩
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「お前………まさか………」
「察しのいい奴は大好きだよ。話が早くて済む。予想通り、宝珠は既に俺が使ったあとだ。さっき説明したように、もうドロップしない。そういう仕様だからな」
違う、そんなアイテムは元より存在などしていない。
それは嘘を騙る俺が一番知っていることだ。だが、続けなくては意味がない。彼女達にはピニオラの言葉を嘘だと断じるに足る証拠もないどころか、その嘘に希望さえ見出して依存さえしている。森で同じ行動を繰り返す限り、ピニオラにいつ獲物として襲われても不思議はない。加えて、彼女達には裏にPKが存在していた事を知ってほしくはなかった。嘘で誘き出され、面白半分で殺されかけた。それを知った後に彼女達が如何なる行動を起こすか、少なからず良い結果には至らないように思えた。
だからこその嘘。病には時に劇物を以て治療するように、嘘を否定するのではなく、真実から遠ざけて、嘘を嘘で終わらせることも肝要なのだ。
「使った、だと………」
「俺は第三層のアクティベートの直後に入手している。あんなに早くドロップするとは思わなかったよ。だからお前達が必死に探し回ったところで全くの無駄だ。………諦めろ」
言い終えると、胸倉を握っていたリゼルの両手が落ちるように外れ、そのまま膝から崩れ落ちる。まるで光を失ったような瞳だけが見開かれた目から涙が零れ落ちるのを見ながら、俺はひとまず呆然自失となったリゼルを放置する形でヒヨリの寝室の前まで歩を進める。レイとニオも、とても悲痛な表情だが、荒療治もこれで終わりの筈だ。
「………そして、これがそれを使った結果だ」
前置きを残してドアを開く。本来は俺から触れることのないドアの向こうでは………
「――――それでね、燐ちゃんがねー………」
「え、それスゴイ意外!?」
「やっぱり純粋な方なんですよ。何といっても精霊と邂逅を果たした人族ですから」
三人寄れば何とやら、かしましく会話に華を咲かせる黒エルフと二名の女性プレイヤーがクッションを抱いて座っていたり、ベッドで寛ぎながらだらけているという、リビングの絶望感とは無縁の温かさを演出していた。リアルでならば漏れた音でこちらも緊張が張りつめそうなものを、SAOのドアの遮音効果によって正しく別空間の様相だ。俺の実名は晒されるものだから仕方がない。
当然、遮音効果はドアを隔てた双方に向けられるもので、空間的に繋がったことでヒヨリの部屋から零れた声に反応したのは、いわずもがなレイ達だった。
「………リーダー、なの?」
目に映ったプレイヤーの姿を半ば信じられないといったように、へたり込んだリゼルが呟く。
「リゼル………レイも、ニオも………みんな、本当に無事だったんだ………」
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