月下に咲く薔薇 12.
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当たり音を立てた。
床か、それに近いものがある。靴のつま先と踵が平面をとらえ、クロウはようやく何がしかの上に立った。
辺りは薄暗い。それでも、照明かそれに類するものはあるのだろう。光源を見定める事ができない中でも、両目が光を感知している。
弱々しく透明感のある、黄色というより青に近い光。まるで今夜の月光でも僅かに差し込んでいるかのようだ。
明るさを頼りに自分の手足を見てみれば、着替えた後のいつもの服と軍用ブーツを履いている。五感も鈍ってはおらず、今の自分が夢中ではないとの考えに大きく傾いた。
ただ、驚いたのは足下だ。固い床か石と思しき感触を足の裏が捉えているというのに、実際には何もなかった。
いや。何も見えない、と言うべきなのか。
試しに歩いてみると、足の負荷など体を進めている実感は常に伴うが、靴音は全く立たなかった。
ふと、口だけ浮かせていたあのライノダモンを思い出す。何故か雄叫び一つ上げる事のできなかった敵の次元獣を。
「なんか、まずい雰囲気だな」
クロウは、無性にこの穴とも空間ともつかない場所から脱出したくなってきた。
ライノダモンの事を考えた為とは思えないが、次第に周囲の見通しがきかなくなってゆく。
何かが漂い始めていた。大きさは様々で、クロウの身の丈程の歪な塊もあれば、拳程度のものもある。ただ、揃って色は赤や濃茶、黄土色など、ライノダモンの体色と同じものばかりときている。
偶然にしては出来すぎだ。それは時間の経過と共に数が増え、50や100ではきかなくなってきた。頭上も目前も浮遊物ばかりで、とうとうクロウの行く手を塞ぐ程に密度は上がってしまう。
「押したら動くのか」と手を伸ばし、クロウは血の気が引く思いのまま凍りついた。右手が、赤い角の一部を貫通したのだ。
他の浮遊物に触れようとしても、結果は同じだ。クロウの手は何の感触も得る事ができぬまま、塊の向こうまで突き抜けてゆく。
「どういう現象なんだ…?」
改めて、夢か現か、どちらとも判断がつけられなくなってきた。もしや通路で転倒し、頭でも打ったのか。
そう考えると幾分気は楽になったが、生憎意識をバトルキャンプに戻す方法には繋がらなかった。もし体に異常が起きている場合、医師の適切な処置が功を奏するまで待つしかないし、それ以外に原因があるなら正にお手上げ状態だ。
クロウは何故か、漂流物を無視しその中を突っ切って歩く心境にはなれなかった。体に当たる心配もないのだし歩くには全く問題ないが、どうにも気持ちのよいものではない。
いつの間にか歩くのをやめ、ただ途方に暮れ立ち尽くしていた。
すっかり囲まれている。感触のない影のようなものに。
クロウの足下から何かが現れたのは、その時だった。
白く細い紐状の物体が、二股に分かれるや、それ
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