第三章 [ 花 鳥 風 月 ]
五十六話 凶夜の警鐘 参
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違いな感じは否めない、故に輝夜は誰とも目を合わせないようにし発生源が自分だと悟らせない慎ましい努力をしている。
しかし現実は無情である────輝夜が何やら気配を感じゆっくりと顔を上げると、そこにはいつの間にか笹螺が立っており、
「…………お腹空いたの?」
と、無慈悲且つ率直な言葉を投げかけられた。
バレてる────そう思うと同時に輝夜の顔は羞恥で、上手く茹で上がった酢蛸と遜色ない程に赤く染まり半泣きになる。
穴があったら入りたい────とは正にこの事であろう。
輝夜の心情を知ってか知らずか、笹螺は自分の着物の袖を弄り中から何かを取り出した。
取り出した物は、牡丹が刺繍されている小さな布袋――――笹羅は袋の口を開けると中から幾つかの木の実状のモノを取り出し、それを輝夜へと差し出すと、
「…………食べる?」
と言葉をかけた。
輝夜はその得体の知れない(お嬢様育ちである為調理済み以外の食材を目にした事が皆無)木の実を恐る恐る手に取りマジマジと観察した。
それが食べられる物であるのか?と思うと同時にある疑念が湧き上がる。
彼等は自分と同じで囚われていると言った……ならばこんな木の実でも貴重な物なのではないのか?と。
「…………いいの?貴重な物なんじゃない?」
輝夜は疑問を率直に口にするが――――問われた笹螺は微かな笑顔を作りながら、
「……大丈夫“困っている時はどんな種族でも助け合わないといけない”って疾風さんが言ってた」
「ふ〜ん、その疾風って奴が誰かは知らないけど良い事言うじゃない……それじゃ有り難く頂戴するわね」
輝夜は渡された数個の木の実を一息で口の中に放り込み噛み締める――――少々固さがあるのか小さく殻を砕く様な音がしていたが食べる分には苦では無かったらしく数秒後には飲み込んでいた。
「…………美味しい?」
食べ終わった後、無言になる輝夜に笹螺が不安げにそう問うと、
「………………えぇありがとう…………助かったわ……」
笑顔を浮かべそう答える輝夜を見て笹螺の顔にも満面の笑みが零れていた。
輝夜は控えめに言っても箱入りのお嬢様で世間知らずである――――我儘もそれなりに……いや結構多いのだ。
そんな彼女が目の前の少女に気を使い『あんまり美味しくなかった』と言う言葉を口に含んでいた物と共に飲み込んだのは褒めてもいい事だったろう。
しかし残念な事に彼女のその行いを評価する存在が居ない事も、今の輝夜の不運の一因である――――――――のかもしれない。
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
大和の本拠地である伊勢―――
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