第162話 復讐の顛末 前編
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意してやる腹づもりなのだろう。
「正宗様、かしこまりました。万事私めにお任せください。今夜にでも手はずを整えいたします」
伊斗香は艶然とし正宗に拱手した。
「後で蔡平を私の元に呼べ」
「かしこまりました。追撃隊は私が隊長を務めさせていただきます」
伊斗香は拱手したまま正宗に深々とお辞儀すると去って行った。
「お呼びですか?」
蔡平は正宗の陣所にやってきた。彼女は陣所の陣幕を潜ると中に入ってきた。彼女は正宗に対して片膝をつき拱手した。
蔡平は表情を平静を装っていたが声音の雰囲気から正宗への不服があることを察することができた。不服の理由は正宗が決闘を認めなかったことだろう。
「蔡平、蔡忠節を殺す機会を与えてやる」
正宗は徐に蔡平に言った。
「わかりました」
蔡平は正宗の命令に素直に従った。しかし、彼女は拳を強く握りしめていた。彼女の望む決闘ではなく処刑でも、蔡忠節を誰かに処刑されるくらいなら自分で殺したい。彼女は正宗の命令に大人しく従うしかないと考えているだろう。
「今夜、伊斗香の手で蔡一族が逃亡する手はずとなっている。お前は追撃隊に加わり一人残らず殺せ。一人でも見逃せばお前の命はないと思え」
正宗は片膝をつく蔡平に言った。彼の話を聞いた蔡平は顔を上げ、彼の顔を仰ぎ見た。
「一対一の勝負が出来るんですか?」
「伊斗香が全て取りはからってくれるだろう。この私を失望させるなよ。必ず生きて帰ってこい」
正宗は蔡平を見た。彼の「必ず生きて帰ってこい」という言葉は実戦を幾度となく経験しているからこその言葉だろう。生死を賭けて戦う戦場に死はつきものだからだ。特に蔡平は人を殺した経験が浅い。一時の気の迷いで死ぬ可能性は往々にある。
「蔡平、私はお前に短い間だったが剣を指導した。師匠面をするつもりはない。だが一つだけ忠告しておく」
蔡平は正宗が自分のことを本当に心配してくれていることを感じたのだろう。彼女は神妙な様子で正宗の言葉を聞いていた。
「お前は蔡伯節を処刑する時、迷いを抱いたな。蔡平、その感情は戦場では死を招く。戦場では自らの命を狙う者は全て敵だ。迷わず斬れ! 斬ったことを迷うなら敵を滅ぼした後に考えればいいのだ。いいな?」
正宗の方が年端は下であったが、蔡平は正宗のことを自分よりずっと年上の人物を見るような視線を送っていた。
「清河王、ありがとうございます」
蔡平は正宗に拱手して立ち去っていった。それを正宗は見送った。
「復讐をしたところで死んだ者は生き返りなどしない。だが、人は復讐せずにはいられないのだろうな」
正宗は先ほどまで蔡平が居た場所を見ながらつぶやいた。彼には蔡平が復讐を果たしても救われる
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