第162話 復讐の顛末 前編
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けたであろう。蔡平は重傷を負い、養い親を目の前で殺されたのだからな」
正宗は淡々と言った。
「あんな生意気で貧乏な老いぼれ二人を殺して何故私の夫が苦しんで死ななければならないのです! 夫は被害者です!」
「被害者? 加害者の間違いであろう」
正宗は侮蔑に満ちた瞳で蔡忠節の正妻を見た。彼の瞳には怒りが籠もっていた。その迫力に気圧され、蔡忠節の正妻は押し黙ってしまった。
「蔡平、殺れ」
正宗は短く命令した。
「清河王、蔡忠節と一対一の勝負をさせてください!」
蔡平は正宗に拱手して蔡忠節との勝負を申し出てきた。
「死罪になる者と一対一の勝負を望むか?」
正宗は静かに蔡平に質問した。
「はい!」
蔡平の瞳には強い憎しみに支配された復讐の炎が映っていった。理屈ではどうにも出来ない感情なのだろう。彼女は母を結果的に見殺しにし、自らの愚かな行動で養い親を死なせてしまった。憎しみの矛先を蔡忠節へ向けることで彼女は生きる理由を見いだしたのだろう。無抵抗な状態で蔡忠節を殺すではなく、正々堂々と討ち果たすことに拘るのが何よりの証拠だった。彼女は蔡忠節を殺すことでしか、前に進めないのだろう。
しかし、いくら死罪になる者とはいえ、蔡忠節との一対一の勝負を容認していいものではない。処刑は厳かに行わなければならない。命を弄ぶような決闘をもって処刑とすることに正宗は悩んだいる様子だった。
正宗は瞑目した。
「駄目だ」
正宗はきっぱりと答えた。
「何故ですか!」
蔡平は目を見開き正宗を周囲の目を憚ることなく睨んだ。
「余が命じたのは処刑だ。決闘ではない」
「こいつを殺させてやると言ったではないですか!」
蔡平は蔡忠節を見ながら正宗に叫んだ。
「確かに言った。しかし、決闘させるとは約束していない。残りの者の処刑は明日に延期する」
正宗はそう言うと立ち上がった。
「待ってください!」
蔡平は正宗を静止したが、正宗は立ち止まることはなかった。
「いかがなさるおつもりでございますか?」
伊斗香が正宗に声をかけてきた。
「蔡平との約束は守るつもりだ」
正宗は歩きながら伊斗香にだけ聞こえるように言った。
「決闘をお認めになると?」
伊斗香は難しい表情をした。死罪になる者を決闘にて処刑すれば、正宗の風聞に傷がつくと感じているのだろう。
「決闘は認めん」
「蔡平は決闘を望んでいるようです。それ以外は納得しないかと」
伊斗香は正宗の考えを探るような視線を送った。
「逃亡者なら問題あるまい」
伊斗香は得心した様子だった。正宗は蔡一族をわざと逃亡させ蔡平に決闘の場所を用
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