第162話 復讐の顛末 前編
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伊斗香は正宗に拱手した。そして、顔を上げ視線を蔡平に向けた。
「蔡平、正宗様に直接剣の指南を受けるとは果報者だな。正宗様に感謝するのだぞ」
「はい」
伊斗香は蔡平に笑みを浮かべ超えをかけた。蔡平はあまり人慣れしていないと無味乾燥な返事をした。
「正宗様、蔡平に村の蔡一族を処刑させる件ですが些か問題がございます」
「そうだな。私人である蔡平に朝敵の処刑役をさせるのは無理がある。妙な噂を立てられかねんからな。伊斗香、何か名案があるか?」
蔡平は正宗の言葉に表情を変えた。今更、復讐の機会を与えられないと言われては困るからだろう。
「正宗様が蔡平を仕官なされば解決するかと。朝廷の臣下は無理でも、王であられる正宗様の朗官にお取り立てになられれば問題はございません。正宗様が望まれなければ別の案をお考えいたします」
「伊斗香、それ以外あるまいな。しかし、蔡平を仕官させる理由が必要だぞ。蔡平には功績がない。士卒なら問題ないが朗官と言えば話が変わる」
正宗は難しい表情をした。
「蔡平から襄陽城の内情については全て聴取済みにございます。その功績では朗官への任官の材料には弱いです。しかし、村を襲撃するにあたり蔡一族を取り逃がすことなく拘束するために手引きをさせてはいかがでしょうか? 蔡平には適役かと思います」
正宗は伊斗香の意見を聞き沈黙して考え込んだ後、視線を蔡平に向けた。
「蔡平、お前はどうだ? 裏切り者と誹りを受けるやもしれん。嫌なら断っても構わない。拒否してもお前の復讐の機会は余が必ず用意すると保証する。王に二言はない」
「私やります!」
蔡平は正宗の申し出を進んでやると言った。復讐の機会を得るために鬱屈とした人生を過ごした彼女に目の前にある正宗の申し出は受け入れる以外に選択肢を見いだすことができないだろう。
「本人もこう申しております。次の戦では蔡平を使いましょう。正宗様、よろしいでしょうか?」
伊斗香は正宗に確認してきた。正宗は頷いた。
「蔡平、稽古は終わりだ。数刻後には進軍開始する。準備をしておけ」
正宗は蔡平に声をかけると蔡平はぎこちなく拱手した。その様を見て彼は微笑ましい表情をした。正宗は伊斗香から蔡平の年を教えられたが、彼女と正宗の年の差は五歳も離れていることを後で知った。その時の正宗の驚きは凄かった。蔡平の見た目はせいぜい年の差は一歳前後に見えるため彼の驚きは幾ばくのことだったろうか。
正宗と伊斗香は蔡平を残し去って行った。少し歩くと正宗は徐に口を開く。
「伊斗香、蔡平に入れ込む理由は何だ?」
正宗は伊斗香に視線だけ向けた。
「使える者は使うべきと思ったまでです。それに蔡平は鍛えれば正宗様の有能である忠臣になり得る存在です。
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