月下に咲く薔薇 10.
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気を孕む。声音は一段低くなり、滑らかな口調とは程遠い無駄にはっきりとした語り口でクロウを説き伏せようとする。
これでは、まるで脅しだ。スフィア保持者として未熟な上、現状認識が甘い、とクロウに腹を立てているのか。
しかも、背中にまとめたクロウの両手首に、アイムは激しく爪を食い込ませてもいた。一体何に憤っているのか、皆目見当がつかない。
「もう一度言いましょう。あのライノダモンから手を引きなさい」
「聞けるか。カミナの口癖じゃねぇが、俺を誰だと思っている!?」立つ事一つ封じられた身で、クロウも喉の奥から凄んで返す。無知な子供のように扱われ、敗者とはいえ敵の要求を素直に飲むプロがどこにいる。「俺は、次元獣バスターだ。それで飯を食っている限り、次元獣が絡む全ての現象には首を突っ込む。いつだって俺自身の意志でな!」
「ならば今後、私も積極的に介入しあなたの仕事の邪魔をしましょう」
アイムが、クロウの手首に爪を食い込ませる事をやめる。交渉の決裂を受け入れたのかと変な安堵をしたところで、頭上に異変が起きた。
顔の向きを変えるにも限度があるクロウは、精一杯真横を向くと視線を立ち上げる。
暗がりを照らす青白い光の輪が随分と小さくなっていた。覗き穴の直径が小さくなるようなもので、口のサイズは変わらぬまま、空中での可視範囲だけが狭くなっているのだ。
その上、歯には1本、また1本と縦に亀裂が走った。
一旦大きく口が開いた直後、音も立てずに全てが空中から消失した。異質なものの全てが。
まるで、突然スポット・ライトが消えた事によって起きる暗転消失だ。歪んでいた空間が次元獣を向こう側に弾き出したのか。圧迫する何らかの力によって潰れてしまったのか。クロウからは見極めようがない。
ただ、口も光も吹き抜けから失われ、クロウ達2人は言い争う理由をなくした。
正にこの瞬間、アイムがどのような表情をしていたのか。残念な事に、クロウは見届け損ねている。
尤も、いつもの仮面じみた薄笑いしか拝めやしないのだろうと考えた。口先から偽りの言葉を吐き、その表情で本心を包み隠す男だ。あくまで実験は成功した、と言い張るに決まっている。
「いっ!」
ところが、何故かこのタイミングで再びクロウの手首にアイムの爪が突き立てられた。
それはほんの一瞬だったが、クロウの声に気づくまでの僅かな時間。アイムの指先は、痕がついたのではと思う場所にまたも深く刺さった。
もし。もし、今頭上で起きた現象が失敗を意味するものなら、当然今は敗北感を感じているのだろう。更に、それを他でもないクロウに見届けられてしまった屈辱は決して小さくないはない筈だ。
無様な姿で床に俯せを強要されているというのに、少しだけ小気味よい自分がいる。
おそらくは上空でも、建物内で起きたこの異変
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