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月下に咲く薔薇
月下に咲く薔薇 10.
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ほぉ」
 アイムの両眼が僅かに細くなった。それまで伺わせていた柔和な表情のまま、更に増した喜色の波動がクロウにも伝わってくる。
 ライノダモンが放つ光に照らし出される事なく、白い顔と白髪に近い銀髪が照明の落ちた店内で微かに白灰色に浮かび上がった。
 建物の遠方から主として4階を照らしている投光器の光は、角度の都合からか1階の中まで直接差し込んではくれない。ガラスを通し店内にまで入り込む量は僅かで、クロウとアイムの影は作られる事なく共に薄暗がりの攻防となっていた。
 クロウの中で観察メモがとられる。吠え声がしない他にも、奇妙な現象は起きている。次元獣の口を取り巻いている青白い光は、この世界の人や物を照らす事ができないのか。
「私は、この目で実験の成功を確認する為に立ち寄ったのです。あなたもご覧なさい。素晴らしい成果ではありませんか」
「確かに、死者・負傷者ゼロで晒し物になっているだけの口。次元獣を無害と宣伝する実験なら、大成功ってとこだな」
 クロウはアイムを怒らせてみたかったが、男は張り付いた笑顔で口端を若干歪めるのみだった。
「ならば訊きますが、『揺れる天秤』。ZEXISやあなたの力で、この建物からライノダモンを排除する事ができるのですか?」
 今度は、クロウが無言になった。
「今のあなたでは、あのライノダモンに干渉する事は不可能です」クロウの目を直視しつつ、左手が優雅に吹き抜けの上部を指し示す。「それとも苦し紛れに、当座の危険がない事を承知で建物ごと破壊しますか? 次元獣排除を名目に施設を粉々にするあなた方の行為を、無力な者達はどのように受け止めるのでしょう。…新たな敵を増やしたくなければ、ライノダモンからは手を引くのです」
「できるか!? 姑息な事を考えやがって。頭のいかれた腐れ外道が!!」
 激しく罵りながら、クロウは早足で一旦アイムから離れる。こちらの目を見つめている人間に直線的な接近は、愚の骨頂だ。
 不愉快な程に紳士ぶったアイムは、射撃・格闘の両方を巧みにこなすが、見た目の印象とは異なり格闘戦をより得意とする。
 30メートルを越える奴の機体が重力下でも鮮やかな宙返りを繰り返し、真っ赤な4本の刃でZEXIS機に大ダメージを与えるのだ。刹那のMSの2倍という全高でエクシアと同等かそれ以上の乱舞を重力下で行うでたらめぶりには腹も立たず、畏怖を以て人智を越えた死神の舞と揶揄したくなる。
 間合いの読みに長け、複数の機体を同時に手玉に取る手練れぶりを見ていれば、嫌でも思い知る。奴自身に高度な格闘術の経験があるのだ、と。
 しかも、生半可な修得レベルとは訳が違う。言いたくはないが、生身の奴自身が、上級者の遙か上。達人を凌ぎ、天才という域にすら到達している。
 初対面の時には、クロウもアイムの技量を読み誤った。その気配自体
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