巻ノ十五 堺の町その十一
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「そうしようぞ」
「ですな。しかしこの町は実に賑やかで」
穴山の言葉だ。
「都や大坂よりもです」
「賑わっておる様に思えるな」
「そうですな」
「それだけによく見たい」
「左様ですか」
「じっくりとな」
こう話しつつ茶を飲んだ後でだった、場を出て堺の町を夜遅くまで回った。その夜の賑わいの中で清海が言った。
「夜ですから」
「兄上、まさかと思いますが」
「おなごのところに行かぬか」
伊佐にも笑って言ったのだった。
「そうせぬか」
「そんなことですから破戒僧と呼ばれるのですが」
伊佐の言葉は咎めるものだった。
「それでも行かれたいのですな」
「駄目か」
「謹むべきかと」
伊佐は顔も咎めるものだった。
「やはり」
「御主はいつもそう言うのう」
「それに病のこともあります」
伊佐はこのことも気にかけていた。
「花柳の病は厄介ですぞ」
「ううむ、それもあってか」
「拙僧はお勧めしません」
「そう言うか」
「少なくともどのおなごもというのは止めておくことじゃ」
根津も清海に言う。
「花柳の病に罹ると戦どころではないぞ」
「えげつないことになるな」
「それでじゃ、、ここはな」
堺ではというのだ。
「わしもあまり勧めぬ」
「ではどうすればよいのじゃ」
「上田まで我慢せよ」
真田の領地に戻るまでというのだ。
「そこで女房を密かに迎えよ」
「坊主に女房を勧めるのか」
「どのみち破門されておろう、御主は」
根津は清海に彼のこのことをあえて言ってみせた。
「そうじゃな」
「それでか」
「よいであろう、わしも上田に入ってな」
「女房を迎えるつもりか」
「その所存じゃ」
「そうなのか」
「やはり女房は必要じゃ」
このことはどうしてもというのだ。
「特に殿はな」
「拙者はだな」
「そうです、どうかよき方をお見付け下さい」
「そうじゃな、女房がおらねば」
幸村もそのことは理解していて言う。
「子も出来ぬしな」
「そして家がなければ」
根津は主にさらに言った。
「心が癒されませぬ」
「だからじゃな」
「はい、奥方のこともです」
「考えておこうぞ。なら上田に帰ったならな」
その時にと言う幸村だった。
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