巻ノ十五 堺の町その十
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霧隠が再びだ、幸村に話した。
「殿は天下人になるおつもりはないですな」
「うむ、家を守ることとじゃ」
幸村も答える、焼酎を飲みつつ。
「拙者自身を高め日ノ本一の武士になることは考えておる」
「そうですな、それがしも殿は天下人ではありませぬ」
「器ではないか」
「器が違います」
「違うとな」
「例えば飯を食う時の椀とこうした鍋を食う時の椀は違いまする」
茶を飲みながらの言葉だ。
「天下人になる方の器があり」
「家を守る器もか」
「あります、天下一の武士になる器も」
それもというのだ。
「ありまする」
「では拙者はそちらか」
「はい、殿は天下一の武士になられる方です」
天下人でなく、というのである。
「その殿から発せられるものを人は見ておるのです」
「それで見られるのか」
「そうです、そして我等もです」
「拙者と共におるのか」
「そうなのです、これからも」
「共に死ぬまでか」
「おりまする」
共にというのだ。
「我等は生きる時も死ぬ時も共にと誓い合いましたな」
「その通りじゃ」
「そのお言葉通りです、我等は殿と共におります」
「そうしてくれるか」
「はい、そして見られることはです」
「拙者の場合は当然か」
「普通のこととお考え下さい」
惹かれるが故にというのだ。
「その様に」
「そうか、ではこのことはな」
「受け入れられますか」
「そうするしかあるまい、見られて困る時もあるが」
隠れる時等だ、このことは幸村自身が忍の術を備えているがうえに頭の中に入れていることの一つである。
「それでもじゃ」
「はい、それでもですな」
「その時は隠れてみせる」
「しかし殿は自然と見られる方ですが」
こう問うたのは猿飛だった。
「どうしても目立ちますが」
「ははは、それは日の下におるからじゃ」
「だからですか」
「夜の物陰にいて気配を消せばどうじゃ」
「そうすれば」
「そうじゃな、誰も拙者に気付かぬな」
人から感じられぬ様にするというのだ。
「そうじゃな」
「確かに。そうされるおつもりですか」
「そうじゃ」
「そこは忍の術を使いまするか」
「そうする」
「隠れることも大事ですな」
「日論も雲に隠れる」
世を照らすそれもというのだ。
「月もそうであろう」
「言われてみれば」
「そうすればよい、普段は見られておってもな」
「そういうことですな」
「そうじゃ、ではこの茶を飲んだ後はな」
「それからですな」
「うむ、堺の町を見て回ろうぞ」
今いるこの町をというのだ。
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