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終わりではなかった
終わりではなかった
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                              終わりではなかった
 明治の頃の話だ。京都では非常に奇怪な噂が流れていた。その噂を聞いて身震いしない者はいなかった。
 その噂は何かと言うと夜一人で歩いていると何かに切られるのだ。赤いマントはいらへんか、そう言って振り向いたら最後背中を鋭利な、刀と思われるものでばっさりと切られて背中を真っ赤に染めてこと切れる。つまりそうして赤いマントを羽織るというわけである。
 だがその噂を聞いても信じない者がいた。京都のある大学に通う学生だ。彼の名前を仮にKとしておこう。このKはその噂を聞いても笑ってこう言うだけだった。
「ははは、そういえば丁度マントが欲しいと思っていたところだよ」
「では君はそのマントを買いに行くというのかい?」
「わざわざ出向いて」
「そうさ。そうしてその噂が本当かどうか確めてみせるよ」
 Kは学友達に笑って言うのだった。所謂近代思想を信奉している彼にとってそうしたあやかしや怪異の類のことは前時代の迷信であり軽蔑の対象でしかなかった。それでなのだ。
 彼はそうした噂を否定し嘘だと暴く為にあえて外に出た。その赤いマント売りが出てくるのは四条、しかも真夜中と聞いてのことである。 
 あえてその真夜中の四条に来た。京都特有の碁盤の如き道には誰も見えない。人の多い京都、しかも歓楽街でもあるそこに来てもだ。彼は誰も見なかった。そしてその有様を見てである。
 彼は闇夜の中で一人大きな口を開けて笑った。そのうえでこう言ったのである。
「誰もが怖がっているな。妖怪だのそんなのがいる筈もないのにな」
 こう言ってだ。高らかに笑ったのだ。とにかく彼は妖怪、幽霊もそうだがそうした存在を信じていない。もっと言えば人は死ねばそれで終わりだとも公言していた。こう言うとこの頃には日本にはまだ流行っていないが共産主義者に見えるが違う。とはいっても共産主義の源流というよりはナチズムと並んでそれそのものだと言っていいフランスの急進主義思想、ジャコバン的な思想を信奉していた。彼は理性と科学こそがこの世の真理だと確信しているのだ。
 だからこそその赤いマント売り、正体不明でありそもそも実際に存在しているのかどうかさえわからないその者を恐れて外に出ない人々を笑ったのだ。それと共に誰もいない、赤いマントさえいないその状況を見てだ。彼は勝利を確信していた。即ち彼が信じているものの勝利をだ。
 そのことについても笑っていた。今の彼の笑いに含まれているものは一つではなかった。だが彼にとっては最高の笑いであることは事実だった。
 その自分自身にとって最高の笑いをあげてだ。Kは満足して四条を立ち去ろうとした。そのうえで翌日大学においてこのことを学友達に話しまた噂話の真実を見極めたこ
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