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終わりではなかった
終わりではなかった
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[9] 最初
の男がだ。Kを見ていた。そしてこう言うのだった。
「赤いマントはいらへんか」
「そんな、何故ここにいるんだ」
 後ろにいるからだ。振り向かずただひたすら歩いたのだ。しかしだ。
 赤いマントの男、目の前の幽鬼そのものかも知れない、そうでなくとも明らかにまともな者ではない男がどうしてここにいるのかがわからなかった。しかしだ。
 Kはここで男の右手に気付いた。そこにはだ。
 禍々しく曲がりそれでいて闇の中でも無気味なまでに眩く、この場合は眩さがそのまま剣呑さになった。言うならば死の光だ。
 そして光はただそこにあるのではなかった。闇の中で煌きそうしてだった。Kを正面から斬ったのだった。
 Kの胸、そして腹から鮮血がほとぼし出る。彼はその鮮血が飛散る中でゆっくりと倒れ男がその血を見て狂気じみた高笑いを浮かべるのを聞いていた。
「赤いマント、やっぱりええなあ」
 男はKが血の海の中で倒れているのを見てこんなことも言っていた。その言葉を薄れゆく意識の中で聞きながらだ。彼はわかったのだった。
 京都の街は碁盤状になっている。従って左に左に曲がっていると同じところに出てしまうのだ。それで彼はこの赤いマントの男から逃れようとしてその前に出てしまったのだ。
 このことはKにとって迂闊だった。そしてその迂闊さ故にだ。彼は今鮮血の中でこと切れようとしていた。赤いマントをその身体に羽織ったうえで。


終わりではなかった   完


                     2012・4・11
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