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EP.1 砂浜の少女
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見ず知らずの自分を保護、治療――それだけでなく、旅の道連れにしてくれる、と言ったワタルの事を信じてもいいのか、と。
「(信じたい。でもまた裏切られたら……)」
ジェラールはエルザが塔に接触することはもちろん、関係する情報を外の人間に口外することも禁じた。もしかしたら、ワタルはその監視のための存在なのかもしれない。
そんな猜疑と恩義の狭間で揺れていたエルザの胸中に、ワタルが一瞬だけ見せた表情がエルザの脳裏に浮かんだ。
「(あの顔を見た時、この人は大丈夫だ、裏切ったりしないって思えた。……なんでだろう?)」
ほんの一瞬だけ見たワタルの表情が、なぜか心に引っ掛かる。
エルザは、思い起こした彼の悲しそうな顔に、不謹慎だと思ったが……安心感を覚えた。
何故、と思ったが……答えは思ったより簡単に出た。
「(そうか……同じなんだ、私と……)」
ジェラールに裏切られた自分の心境と、ワタルの悲しげな顔が重なったのだ。
ジェラールや仲間の事を考えると心が引き裂かれんばかりに痛む。
もしも、この上本当に一人きりだったら正気を保てたかどうかわからないと思えるほどに、彼女の心は弱っていた。
『この人はもしかすると、自分と同じ痛みを知っているかもしれない』
そう思う事で、乗り越えられるんじゃないか――そう錯覚したのだ。
それはある種の傷の舐めあいなのかもしれない。
それでも彼女の弱った心には、ワタルという存在が救いだったのだ。
孤独よりは何倍もマシだ、と。
そして、1時間ほど経っただろうか。
「お待たせ、買ってきたぞ」
「お、おかえり、遅かったな……」
「他にも買い物があったからな」
「そ、そうか、ごめん」
時間がかかったのは包帯や傷薬など、消耗品を買ってきたからだ。
自分のためだ、と彼女は分かっていたため、申し訳ない気持ちになったエルザだったが……
「だからそんな顔するなって。とりあえず、それ脱げ」
「……え?」
恥じる様子も無く、そんな事を言いやがった少年・ワタルに、エルザは暫し思考を空白にしてしまう。
目を点にするエルザと至って真面目な表情のワタル。沈黙が長く続く事は無く、エルザは正常な思考を取り戻す事に成功する。
「お、おおおおおまおまお前! い、いいいいいいいきなりななななななにをいうのだ!?」
…………訂正、正常ではなかった。
羞恥と怒りで顔を真っ赤にして、目の前の少年にビシッと指を差したエルザの口から出た言葉はしどろもどろというレベルではなかったのだが、当のワタルは不審そうな表情で口を開いた。
「なにって、治療の続きだよ」
「いいよ、そんなの!」
「いいわけないだろ。昨晩したのは応急
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