原作開始前
EP.1 砂浜の少女
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だ痛むか?」
「いや、大丈夫、だ……」
ワタルの言葉に自分の身体に手を当てて怪我の具合を確かめたエルザはある重要な事に気付いた。
「……その……見た、のか?」
「? 何を?」
腕や足ならともかく、鞭で打たれた背中を治療して包帯を巻こうと思ったら、この布切れを脱がさなければならない。
エルザの言葉は、まあそういう訳なのだが……エルザが険しい表情を赤く染めて発した言葉は目的語を欠いており、ワタルにその意図を悟らせる事は無かった。
「……なんでもない!」
「何だ? っておい、そんなに走ると傷が開くぞ!」
エルザはますます顔を赤くして走りだし、ワタルも後を追って走る。
こうして、半ば言い負かされる形でなし崩しにワタルとエルザの二人旅が決まり、二人はまずは情報取集と、近くの町の方に歩いて行った。
朝日を背に砂浜を西に向かって歩く事数時間、二人は小さな港町をその視界にとらえていた。
「もうそろそろ港町だが……入る前に服を買わないとな」
「え?」
「その格好で町を歩くつもりか?」
「あ……」
今のエルザが身に着けているものは、ボロボロの服……と呼べるかどうかすら怪しい布切れだ。
治療に使った包帯も肌を隠すのに一役買ってはいるが、そのままだと一ヶ月持たないだろう、というのはワタルにも、そして当のエルザにも容易に見当がついた。
そんな恰好で町を歩くなど、あまり考えたい事ではなかった。
「何か買ってくるから洞窟で待ってろ」
「お金はあるのか?」
「少しなら大丈夫だ」
「……じゃあ、頼む。ごめん……」
気にするな、と言ってワタルは町へ歩き始め、再び見つけた小さな洞穴に残されたエルザは渡された毛布に包まりながら考え始める。
「(なんでワタルは私に色々世話してくれるんだろうか……)」
エルザは少し前まで、カ=エルムの近海に秘密裏に建設されている塔で働く奴隷だった。
長く苦しい奴隷生活の中で、エルザは看守たち――歴史上最悪と言われる黒魔導士・ゼレフの狂信者たちに反乱を起こした。
神官のほとんどを討ち取り、反乱は成功したも同然だった。
後は、自分たちのリーダー的存在とも言えるジェラールを解放しようとしたのだが……彼はゼレフの亡霊に囚われて乱心してしまっていた。
元の優しいジェラールに戻ってくれ、私たちは自由だ。
そう訴えるエルザだったが、聞く耳を持たないジェラールに『仮初の自由を堪能しろ』と突き放され、独り塔から放り出されてしまった。
強いリーダーシップと正義感を持っていたジェラール。そんな彼に憧れを持っていた故に、彼が掌を返した事はエルザの心に大きな傷を残した。
だから、エルザにはワタルの真意が分からなかった
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